研究分担者 |
CHAWALIT PAI Khon Kean大学, 医学部, 助教授
WITAYA THAMA Mahidol大学, 医学部, 助教授
伊藤 誠 名古屋市立大学, 医学部, 助手 (90137117)
白井 智之 名古屋市立大学, 医学部, 助教授 (60080066)
THAMAVIT Witaya Mahidol University
PAIROJKUL Chawalit Khon Kaen University
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研究概要 |
1.研究背景:タイの北東部では肝吸虫であるOpisthorchis viverrini(OV)の感染が極めて高く,しかも胆管細胞癌の発生も高頻度である。さらに実験的にもOV感染がハムスター胆管癌に発生を促進する結果が得られており,ヒト胆管癌の発生とOV感染の関与が強く示唆されている。本研究ではこの地方における肝内胆管癌の病理組織学的特徴,食物中の発癌物質や肝炎ウイルスの関与の有無などについて3年間追究してきた。ここにその成果を報告する。 2.食物中の発癌物質:タイ北東部のコンケン地方の低所得者に常食されている発酵魚であるPlaraについてアフラトキシンB_1,B2G_1,G_2,ステリグマトシスチンおよびオクラトキシンの菌毒,ニトロサミンであるジエチルニトロソアミン(DEN)とジメチルニトロソアミン(DMN)の含有量を高速液体クロマトグラフ法とマスフラグメント法によって測定したが,いずれも測定限界以下で検出されなかった。 3.肝炎ウイルスの関与:タイ北東部の肝内胆管癌の発生におけるB型肝炎ウイルスの関与を検討したが,胆管癌患者94例中HB.抗原の陽性者は5例のみであり,B型肝炎ウイルスと胆管癌発生との関連性は認められなかった。 4.抗肝吸虫抗体価と胆管癌発生との関連性:胆管癌患者47例,胆嚢炎患者29例とコンケン地方の交通事故死例19例と日本の健常人から血清を採取し,OV成虫体抗原に対する1gG抗体価をELISA法にて測定した結果胆管癌症例では89%に,胆嚢炎では69%に,交通事故死例では42%に抗OV-IgG抗体が検出され,胆管癌に抗体陽性率が高く,しかも抗体価は胆管癌症例に最も高い値を示し,抗肝吸虫抗体価の高い症例は胆管癌の危険率が高いことが示唆された。 5.肝内胆管癌の病理組織学的特徴:コンケン大学の肝内胆管癌の病理組織学的特徴を対照群の日本の症例と比較検討したところ,概ね組織学的な相違は無かったものの,腺癌のなかで髄様腺癌に類似した低分化な癌がコンケン地方の症例にのみ認められ,両者の腫瘍の形質発現に差があることが示された。この事から胆管細胞癌の発生原因や機構になんらかの違いのあることが示唆される。さらにタイ症例には胆管周囲の炎症性反応が高率にしかも強くみられ,胆管上皮の過形成が特徴的であった。また肝吸虫の感染部位に一致して初期の癌をみとめた症例もあった。 6.ハムスター肝内胆管癌の発生に対する胆管の結紮の影響:OV感染が肝内胆管癌の発生を促進するが,その機序は不明である。胆管の閉塞の影響について追究するため,ハムスターにDMNを投与した後に一側の肝管を結紮したところ,胆管癌の発生はDMNと肝管結紮群のみに認められ,代償性の胆管の再生性増殖が胆管癌の発生促進に働くとが示唆された。 7.肝吸虫治療薬の肝発癌に及ぼす影響:肝吸虫の治療薬であるプラジカンテルは動物実験から急性毒性は弱く,発癌性の無いことが報告されている。しかし肝発癌促進作用については未知である。この点を最近開発した肝の前癌病変を指標とする8週間の中期発癌性検索法を用いて検討した結果,肝の前癌病変の指標酵素であるGTSP陽性細胞巣は1500mg/kg bwの強制経口投与の群でDEN単独処置の対照群に比して有意な増加があったが,その投与量はヒトで用いられている量に比して著しく多く,ヒトでの危険性はほとんど無いと考えられる。 以上の成果から,タイ北東部の胆管癌の高率発生には肝吸虫の反復感染に基づく長期の胆管の炎症とそれに伴う上皮の過形成が重要な要因になっていると推察される。食物中にニトロソ化合物やかび毒などの発癌性物質が積極的に関与している所見は認めらなかった。
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