研究課題
国際学術研究
本研究では、オ-ステナイト系ステンレス鋼について照射誘起粒界化学化の非破壊計測・評価のため、Cr欠乏層及び不純物偏析に起因する粒界腐食感受性の電気化学的手法による評価を行なった。また高温高圧水中における応力腐食割れ試験をSSRT法によって実施し、粒界化学と応力腐食割れ挙動との対応について検討した。さらに割れ感受性の電気化学的手法による評価を行なった。得られた知見を列挙すれば1.改良型EPR試験により、照射誘起Cr欠乏層のようなきわめて幅の狭いCr欠乏層の評価が可能である。2.炭素含有量の高いC材は、650℃50時間で著しく鋭敏化し、850℃10時間の焼戻し熱処理によってもCr欠乏層の十分な回復はみられなかった。一方炭素含有量の低いE材においては、鋭敏化後の焼戻しにより粒界近傍のCr濃度は十分に回復し、改良型EPR試験においても粒界腐食溝は観察されなかった。3.5NーH2SO4、1050mV(SCE)における定電位電解試験により、粒界の不純物偏析量を計測・評価することが可能である。また計測された電荷密度は、PあるいはSi偏析量に対応しているものと考えられ、溶体化熱処理後の650℃での鋭敏化により増加し、その後850℃での焼戻しによって減少した。4.RIS計測装置により、TEMディスク(直径3mm,暑さ0.25mm)の粒界化学計測が可能であり、実照射材への適用が可能であると考えられる。5.改良型EPR試験における再活性化率は、IGSCC発生に対する閾値を有しておりその値は約2%である。また炭素含有量の少ない材料では、著しい鋭敏化が生じている試料においてもIGSCCは観察されなかった。6.定電位電解試験における電荷密度値にはIGSCC発生に対する臨界値が存在し、その値は約20mC/cm2である。また不純物含有量の多い材料では、溶体化材及び焼戻しによりCr欠乏層の影響が低下したと考えられる試料においても高い電荷密度を示したが、IGSCCは観察された。7.IGSCCは、Cr欠乏層と不純物偏析の双方により影響されるものと考えられ、IGSCC感受性の評価マップを作成した。8.非被壊計測・評価のためのRIS検出装置を試作し、その性能を確認した。これらの成果にもとづけば、数nm幅のCr欠乏層及びP、Siなどの偏析を誘起する照射材への適用は充分である。今後、本研究でも検出された粒界上のB、Nなどの検出機構をさらに検討する事により、核変換によりHeやHを作り出す化学種についての非破壊検出可能性がさらに進められる。照射誘起応力腐食割れの機構的解明に対しても、同一材料についてこれらの計測量とSCC感受性を正確に比較する事により、大きな寄与となる。
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