研究課題
時間分解能70fsのアリゾナ大学のフェムト秒白色光を用いた超高速ポンプ・プロ-ブ分光計を用いた実験の結果、以下の事が明らかにされた。〈CdSe薄膜における励起子共鳴励起下での超高速分光〉 CdSeは価電子帯のA、Bバンド中の正孔と伝導帯の電子とからなるA励起子、B励起子があるが、これらを共鳴的に励起したときの励起子系のダイナミクスについて研究した。A励起子を共鳴励起したときの時間原点近傍ではA励起子の低エネルギ-、高エネルギ-側に誘導吸収がみられる。ところが、時間経過とともに低エネルギ-側の誘導吸収は消えるが、B励起子の高エネルギ-側の誘導吸収は増加していく。この様なスペクトル変化は励起子吸収線のブロ-ドニングを考えると、ほぼ定量的に説明できる。特に、B励起子吸収線のブロ-ドニングは高密度に励起されたA励起子とB励起子との散乱による衝突広がりであると考えられる。この様に、異種励起子間の散乱過程が吸収線の衝突広がりにより観測された。このエネルギ-ブロ-ドニングにより、平均のA励起子ーB励起子散乱時間がおよそ30fsと求められた。また、B励起子共鳴励起のとき、時間経過と共に、A励起子の吸収飽和に対してB励起子の吸収飽和の急激な回復が観測された。B励起子の吸収飽和の急激な回復はB励起子がLOフォノンを放出して、A励起子状態へ次々と散乱していくためであると考えられる。〈BiI_3における超高速コヒ-レンス現象の観測〉 層状結晶BiI_3の間接励起子吸収端近傍の透明領域には、積層欠陥励起子吸収線、R、S、Tが見られる。フェムト秒レ-ザ-を用いた強励起条件下において、R、S、T線についての温度10Kにおける吸収の時間変化には、時間分解能よりも大きな負の時間遅延においても変化が現れた。これは励起子系のコヒ-レンスを反映したもので、わずかに存在する振動的な構造は、これらの吸収線の間に量子ビ-トだと考えられる。正の時間遅延においては、ブリ-チングと一緒に周期およそ300fsの振動は数+psにもわたって続いた。一方、透明域(630nm)においても同じ周期の振動が観測された。この振動は、プロ-ブ光の透過スペクトル全体の周期的なスペクトシフトであり、時間原点では、瞬間的に長波長側にシフトしていることが確かめられた。 周期300fsは、14meVのエネルギ-に対応するが、これはBiI_3のTOモ-ドのフォノンエネルギ-に一致する。 従って、この振動現象はBiI_3の格子振動が直接に時間変化として観測されたもので、コヒ-レントフォノン効果だと考がえられる。
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