研究分担者 |
MARINO RITA 国立ナポリ臨海実験所, 研究員
PINTO M.ROSA 国立酵素, タンパク質化学研究所, 研究員
DALE BRIAN 国立ナポリ臨海実験所, 主任研究員
DE Santis RO 国立ナポリ臨海実験所, 部長
薄井 紀子 帝京大学, 医学部, 助教授 (50082136)
千葉 和義 東京工業大学, 生命理工学部, 助手 (70222130)
松本 緑 東京工業大学, 生命理工学部, 助手 (00211574)
西田 宏記 東京工業大学, 生命理工学部, 助教授 (60192689)
ROSARIA Pinto M. Institute of Protein Biochemistry and Enzymology, C.N.R.
SANTIS Rosaria De Department of Cell and Developmental Biology, Stazione Zoologica 'Anton Dohrn'
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研究概要 |
系統発生上重要な位置を占めるホヤ類における精子一卵相互作用の分子機構につき,以下の諸点を研究した。世界に広く分布し,古くから良く研究されているカタユウレイボヤCiona intestinalisと,日本近海の特産種で生化学的研究に適したマボヤHalocynthia roretziとを主な材料とした。両種ともに自家不稔性であり,ホヤ綱を2分する内性ホヤ目,側性ホヤ目をそれぞれ代表するものである。 1.精子一卵黄膜結合 カタユウレイボヤでは,精子α-L-フコシダーゼが卵黄膜上の精子受容体糖タンパク質の末端フコースを認織しているという我々の仮説はほぼ確立した。この仮説が,マボヤにおいても成り立たつことが示唆されたので,マボヤ精子からも同酵素の精製を試みた。ユウレイボヤの場合とは異なり,マボヤ精子の酵素は極めて不安定で,酵素化学的な解析を行うのに充分な量の精製標品を得ることは出来なかった。ヘキソサミニダーゼは比較的容易に精製出来たが,精子結合に直接的には関与しなかった。精子の結合能と運動能とを完全に区別して測定することによって,この酵素の合成基質がマボヤ精子の運動を昂進することが明かとなった。 2.精子受容体タンパク質 マボヤ卵黄膜の主要成分で,末端フコースを持ち精子受容体として働くと予想される70kGPを精製した。この糖タンパク質はプロリン,疎水性アミノ酸を多く含んでいた。アミノ酸配列の決定を試みたが,N-末側4残基以上は読めなかったので,リジルエンドペプチダーゼ消化により45kおよび25kの断片にし,45k断片のN-末側13残基までを決定した。これらを手掛りに,70kGP遺伝子の解析を開始した。 3.精子の卵黄膜通過 マボヤでは,精子の卵黄膜通過にトリプシン様活性(スペルモシンおよびアクロシン)とキモトリプシン様活性がともに必要であるのに対し,カタユウレイボヤでは後者のみが要求されることは既に明らかにした。その後マボヤ精子のキモトリプシン様活性は,プロテアソームに由来することが横沢らによって明らかにされた。カタユウレイボヤ精子の卵黄膜ライシンであるキモトリプシン様プロテアーゼを精製し,酵素学的性質を詳しく調べたところ,本酵素はプロテアソームではなく,その基質は卵成熟過程で付加されるタンニン酸好染性の卵黄膜最外層であると判明した。 4.細胞膜融合 カタユウレイボヤ精子のライシンを検索する過程で,金属プロテアーゼの阻害剤が,正常卵のみならず裸卵の受精をも阻害することが明かとなり,この酵素が精子と卵の膜融合に関与していることが示唆された。未受精卵に負荷した核染色性蛍光色素による精子核の染色,および膜電位の変化を指標として両配偶子の細胞膜融合を調べ,この過程にはZn^<2+>依存性金属プロテアーゼが関与していることを示した。ついで,カタユウレイボヤ精子にそのような活性があることを見出し,精製したところ,驚くべきことにその実体はライシンとして働くキモトリプシン様酵素そのものであると結論された。 5.自家不稔性の獲得 カタユウレイボヤの卵巣より単離した一次卵母細胞は,十分成長したものでも受精能はないが,海水中で培養すると10数分で卵核胞が崩壊し,自他の区別無く受精可能となる。さらに1-2時間培養すると他家の精子では完全に受精するが,自家のものでは受精しなくなる。この自家不稔性の獲得には瀘胞細胞の存在が必須であるが,瀘胞細胞は必ずしも卵黄膜に結合している必要はない。自家不稔性の獲得に対応して,瀘胞細胞由来のタンニン酸好染性物質が卵黄膜外表面に沈着し薄層を形成する。3.で述べたように,この層は受精に際しライシンによって分解されるので自家不稔性とライシン,言換えれば,卵の自家不稔性と精子の先体反応とが密接な関係にあることが予想される。カタユイレイボヤでは精子一卵黄膜結合においても自他の識別が認められるのに対し,マボヤではこの過程で自他の区別がされていない。おそらく,自家不稔性の一般的な機構は,アロ認識の結果,自家であると先体反応の誘起が阻止されることにあるのではないかと予想される。
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