研究課題/領域番号 |
02044073
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小嶋 祥三 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (70027499)
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研究分担者 |
MELTZOFF And ワシントン大学, 心理学部, 教授
KUHL Patrici ワシントン大学, 音声聴覚学部, 教授
出口 利定 東京学芸大学, 教育学部, 助教授 (50143623)
桐谷 滋 東京大学, 医学部, 教授 (90010032)
久保田 競 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (30027479)
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研究期間 (年度) |
1990
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キーワード | チンパンジ- / ニホンザル / ヒト乳幼児 / 音声知覚 / カテゴリカル知覚 / 母音の正規化 / 半球優位 / 模倣 |
研究概要 |
今年度は以下の点に焦点を当てて検討した。1)チンパンジ-の破裂子音のカテゴリカル知覚、2)ヒトの乳幼児の音声知覚の測定法の検討、3)ニホンザル、チンパンジ-、ヒトの母音の正規化の研究、4)ニホンザル、チンパンジ-の種特異的音声の知覚における半球(耳)優位、5)チンパンジ-の模倣能力。 1)チンパンジ-の破裂子音のカテゴリカル知覚は、〔ga〕ー〔ka〕(有声ー無声)、〔ba〕ー〔da〕(調音場所)で検討した。それぞれvoice onset timeと第1、2ホルマントの変移部の出発周波数を段階的に変化させることにより、2つの音素対の連続体を合成した。まず、〔ga〕ー〔ka〕で検討したが、音素の境界を跨ぐ対で弁別が容易になり、ヒトおよびマカクザルと同じ様なカテゴリカル知覚がみられた。〔ba〕ー〔da〕では弁別が困難であったが、有声ー無声の場合と同様に、調音場所の相違もカテゴリカルな区別がみられた。 2)ヒトの乳幼児の音声知覚の測定法については、非栄養的なサッキング法による有声ー無声の破裂子音の弁別、頭部回転法による母音の弁別で検討した。前者は慣れー脱慣れによるサッキングの減少ー増加が予想されたが、そのような結果はみられず、不安定であるが逆の方向の結果となった。それゆえこの方法は問題があると考えられた。そこで頭部回転法により母音の弁別の実験を行った。その結果母音の変化による頭部の回転がみられ、この方法がより有効であるとの結論に達した。そこで分担者の出口が、この方法で長年研究を行っている分担者の米国ワシントン大学Kuhl教授の教室で意見を交換し、この方法を改善する方策の示唆をえた。また研究協力者の林も米国デュ-ク大学馬塚教授とこの点を論議し、さらに文の生成、知覚についても意見を交換した。 3)ニホンザル、チンパンジ-の母音の正規化については、〔o〕ー〔a〕の連続体を高(女性の声)、低(男性の声)2つの基本周波数で合成し検討した。まずヒトの成人がこの音声刺激で正規化を行うことを確認した。次にニホンザル、チンパンジ-で、反応時間課題による弁別により、母音(声道長)の正規化の能力の有無が検討された。その結果、チンパンジ-、さらにニホンザルも母音の正規化を行っていることがわかった。これはかれらが、話者の相違による母音の音響特性の変動を無視し、発話者にかかわらずある母音は同じ母音として聴いていることを示唆する。これは別の実験より確かめられた。 4)ニホンザル、チンパンジ-で種特異的な音声の知覚に半球(耳)優位があるか検討した。ニホンザルの種特異的な音声はcoo callである。チンパンジ-ではgrunt、whimper、squeakである。方法は反応時間課題による継時弁別であるが、左右の耳に別々に刺激を提示し、弁別の成績を比較した。米国では2種のcoo call(early highとlate high)の同様な方法による弁別で、右耳(左半球)優位の結果が得られている。本研究では、しかしながら、そのような現象はみられていない。分担者のKuhl教授もこの結果を再現できなかった。チンパンジ-では、gruntーwhimperの弁別でニホンザルと同様の右耳(左半球)優位がみられたが、安定した結果ではなかった。他の音声ではそのようなことはなかった。分担者の久保田がニホンザルのreachingで左手優位を報告するなど、動物のラテラリティへの関心が集まっており、今後さらに検討すべきだろう。 5)チンパンジ-の模倣能力については、代表者が実験者となって30の様々な動作を行い、2頭の被験体の模倣を検討した。動作を、a)頭面体幹部など視覚の補助がない部分へ向かう動作、b)上腕手指など視覚のフィ-ドバックの可能な部位へ向かう動作、c)重心の移動などを含む大きな動作、d)床など外部空間へ向かう動作、e)対象操作を含む動作に分類した。その結果、この順序で模倣が容易であった。また模倣のエラ-は目標の近傍の部位へ向けられ動作が大部分であった。さらに、模倣が生起するには、その動作をレパ-トリ-として持っていること、検査事態で自発傾向が高いことが重要であった。これらについてヒトの新生児の模倣を研究している分担者のMeltzoff教授と京大・霊長研で共同研究した。
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