研究概要 |
特別推進研究の援助のもとに,我々は,巨視的に均一なイオン性溶液が微視的には必ずしも均一ではないことを明確にした。即ち,イオン性溶液一般を通じて,局所的に結晶様規則構造が発生し,これらクラスタ-が不規則構造と共存しているという従来の液体構造論と相容れない事実を明確にしてきた。これまでの研究により,イオン性高分子溶液の,従来測定が不可能であった超小角領域に規則構造クラスタ-の存在を示すupーturn挙動を見いだし,クラスタ-の大きさ,その高分子濃度,添加塩濃度依存性を明らかにするとともに,規則領域と不規則領域での高分子密度の差など,定量的議論を行うことに成功した。本年度は,ドイツユ-リッヒ研究センタ-との協力のもと,さらに種々の高分子イオン溶液に対して測定を行い,普遍的知見を得るとともに,更に小角領域の測定を試み,定量問知見の信頼性を高めた。さらに,コンピュ-タ-シミュレ-ションにより先駆的に研究を行っているインドのグル-プとの交流を行い,討論を重ね,以下のごとく研究の効率的完成を達成した。 ドイツ国ユ-リッヒ研究センタ-における超小角中性子散乱測定を種々の合成及び生体イオン性高分子溶液に対して行った。我々は,ポリスチレンスホン酸ナトリウム重水溶液に関し,超小角領域に規則構造クラスタ-の存在を示す散乱強度のupーturn挙動を見いだし,Guinier法およびモデル計算によりクラスタ-サイズ,クラスタ-内外分高分子密度差などの定量的評価に成功している。本年度は,同様の測定,解析をポリアクリル酸,ウシ血清アルブミンなど種々のイオン性高分子溶液に対して実施し,添加塩濃度,電荷密度等の影響を調査し,普遍的知見を得た。さらに,より小角領域の測定を試み,得られる構造パラメ-タの定量的信頼性の向上を図るとともに,重水と軽水の組合溶媒を用いるContrast Variation法を用い,クラスタ-の内部の構造に関し,より評細な知見を得た。動的光散乱測定により評価したクラスタ-の並進運動モ-ド解析により得られる情報との比較も極めて良好であった。 同様の測定を京都大学の設置した超小角散乱装置(USAXS)によっても行い,両者の比較検討を行いつつある。 最近,インド科学研究所などにおいて,本申請課題についてコンピュ-タ-シミュレ-ションにより大きな進展がみられた。その研究グル-プの指導者(Prof.A.K.Sood)を短期間招へいして共同研究を行うことができた。またさらに,Buergenstock会議及びGordon会議は,当該分野の世界的研究者の集りであり,これの参加して本研究成果を発表し討論を行い,本研究の完成に役立てた。また,分担者曽我見郁夫は,オックスフォ-ド大学とコロイド分散系について理論計算を協同で行っており,渡英し完成にいたらしめた。また,マインツ大学において脂質二分子膜の構造を熱測定法により解析し,クラ-クソン大学においては担汁酸溶液の散乱について協同御究を行った。
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