ピロロキノリンキノンの生化学的機能に関する研究

1992 年度 研究成果報告書概要

• 研究課題/領域番号: 02044106
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: 山口大学
• 研究代表者: 足立 収生 山口大学, 農学部, 教授 (20027189)
• 研究分担者: P Postma デルフト工科大学, 助教授 ; G Barend デルフト工科大学, 技官 ; J Jongejan デルフト工科大学, 助教授 ; J Frank デルフト工科大学, 助教授 ; J Duine デルフト工科大学, 教授 ; 滝本 晃一 山口大学, 農学部, 教授 (00115875) ; 山田 守 山口大学, 農学部, 助教授 (30174741) ; 品川 恵美子 宇部高等専門学校, 助教授 (20116726) ; 飴山 實 関西大学, 工学部, 教授 (90022053) ; 外山 博英 山口大学, 農学部, 助手 (60240884) ; 松下 一信 山口大学, 農学部, 助教授 (50107736) ; J.A.DUINE Professor, Delft University of Technology ; H.SCHROVER Postgraduate student, Delft University of Technology
• 研究期間 (年度): 1990 – 1992
• キーワード: ピロロキノリンキノン / キノプロテイン / メタノール脱水素酵素 / キノプロテインアルコール脱水素酵素

研究概要

キノプロテイン研究のなかで、その多様性が明らかになってきたPQQを補酵素とするキノプロテインアルコール脱水素酵素(ADH)について、本研究ではとくに重点をおいて研究された。その結果、ADHは4種類に大別されることが明らかになった。(1)メタノール資化性細菌にみられるメタノール脱水素酵素(MDH)、(2)非メタノール資化性細菌にあって、エタノールやその他のアルコールによって誘導生成され、構造的にMDHに類似しているキノプロテインADH、(3)PseudomonasやComamonasなどの細菌でエタノールによって誘導生成され、PQQのほかにヘムC成分を含むキノヘムプロテインADH、及び(4)酢酸菌の細胞膜に存在するキノヘムプロテインADH・チトクロムC複合体である。酢酸菌のADHは細胞膜結合型であるのに対し、他のADHのほとんどは水溶性画分に見られる酵素である。これらのキノプロテインADHは全てペリプラズムで機能しているか、ペリプラズムに面した細胞質膜外表層に局在して機能していると考えられ、細胞質内にあるNAD(P)を補酵素とするADHとはそれぞれ別の機能を有している。
上記の概要に到る過程で以下に示す新しい知見が得られた。(1)メタノール酸化系の遺伝子産物として、32kDaを有するγサブユニットの存在が、Acetobacter methanolicusに見出され、そのN末満アミノ酸配列はmoxJの塩基配列から推定されるアミノ酸配列ときわめて高い相同性を示した。(2)C.testosteroniのキノプロテインADHの構造が明らかになり、本菌によるアルコール酸化に連動している電子伝達鋭の実態も明らかになった。(3)新たにP.putidaが単離された。本菌はC.testosteroniと異って、本来木口型のADHを生成することが示された。水溶性画分にホロ型のADHが生成されることは本研究で初めて示された。さらに、本菌は1級アルコールで培養すると、通常のキノヘムプロテインADHが生成されるが、グリセロールや1,2-プロパンジオールを炭素源として用いると、グリセロールを酸化するADHが生成された。いずれのADHもホロ型であったうえ、互に遺伝子を異にすることも明らかになった。さらに同菌には、いずれの実験条件においても、ヘム成分をもたないMDHに類似のキノプロテインADHが生成されることも初めて示された。本酵素は普遍的に生体内に存在しているものと考えられる。(4)MDHの生成時に培地中にカルシウムを加えると通常のMDHが生成されるのに対し、ストロンチウムを加えておくと、ストロンチウムを含有したMDHが生成された。ストロンチウムを含むMDHは通常のMDHよりはるかに高い酵素活性を示した。(5)PQQによる細胞の生育促進活性の発現について、大腸菌や酢酸菌を用いて実験と考察が加えられた。その結果、PQQやPQQ付加体が大腸菌の培地に加えられると、大腸菌の細胞膜にあるグルコース脱水素酵素がホロ化され、対照区にくらべて著しい生育促進が見られた。これは、細胞膜にアポ型で存在するグルコース脱水素酵素反応の結果、細胞膜の電子伝達〓においてATPが生成され、これが糖質のリン酸化に使用される結果、糖のとり込みと糖代謝が開始され、細胞の生育の初期に必要なエネルギーが獲得されるものと考えられる結果が得られた。
脱水素酵素の新しい補酵素としてPQQが見つかり、1979年に構造が決定された。PQQの研究史のなかで、PQQの構造決定を契機に急転開をした研究分野がMDH以外のPQQ酵素に関する研究である。この分野の研究に、従来独立に、別々な方性論で実験や研究を行っていたが、本研究を組織することで、互に相補的な共同研究をすすめることができたことは、PQQ酵素全腹について、世界に対し研究指針を示すことにもなった。このような研究活動を通して、山口大学の研究グループはどのような役割を担当して行くことになるかについても認識を深めることができた。

研究成果

• [文献書誌] 松下 一信,高木 善弘,品川 恵美子,飴山 實,足立 収生: "酢酸菌のアルコール酸化素呼吸〓" 日本農芸化学会欧文誌. 56. 304-310 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Meulerbeng,Sellink,Reigman Postoma: "KlebsiellaのPQQオペロンの構造" 分子遺伝学雑誌. 232. 284-294 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 松下 一信,高橋 和宏,高橋 源尚,飴山 實,足立 収生: "メタノール資化性酢酸菌のメタノール及びエタノール酸化呼吸〓" 日本生化学会欧文誌. 111. 739-747 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 久野 智広,村田 幸作,木村 光,松下 一信,外山 博英,足立 収生: "Citrobacter freundiiの膜佶合型スペルミジン脱水素酵素の性質" 日本農芸化学会欧文誌. 56. 1916-1920 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 山田 守,浅岡 伸太,H,SAIER,山田 康枝: "大腸菌のgcd遺伝子の性質とその発現調節" 米国微生物学会誌. 175. 568-571 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 松下 一信,中村 淳雄,外山 博英,足立 収生,G.BAREUD,J.A.DUINE: "Comamonas testosteroniの可溶性及び膜佶合型キノヘモプロテインADHの構造" 米国生化学会誌.
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 松下 一信,足立 収生: "Principlesand Applications & Quinoproteins(分担)" Marcel DekRer Iuc., 37 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] J.A.DUINE,J.A.JONGEJAN: "Bioinorganic Catalysis(分担)" Marcel DekRer, (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] K. Matsushita, Y. Takaki, E. Shinagawa, M. Ameyama, O. Adachi: "Ethanol oxidase respiratory chain of acetic acid bacteria. Reactivity with ubiquinone of pyrroloquinoline quinone-dependent alcohol dehydrogenases purified acetic acid bacteria." Biosci. Biotech. Biochem.56. 304-310 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] J. Meulenberg, E. Sellink, N. Reigman, P. Postma: "Nucleotide sequence and structure of the Klebsiella pneumonia PGG operon." Mol. Gen. Genet.232. 284-294 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K. Matsushita, K. Takahashi, M. Takahashi, M. Ameyama, O. Adachi: "Methanol and ethanol oxidase respiratory chains of the methyloptrophic acetic acid bacterium, Acetobacter methanolicus." J. Biochem.111. 739-747 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T. Hisano, K. Murata, A. Kimura, K. Matsushita, H. Toyama, O. Adachi: "Characterization of membrane-bound spermidine dehydrogenase of Citrobacter freundii." Biosci. Biotech. Biochem.56. 1916-1920 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M. Yamada, S. Asaoka, M. Saier, Y. Yamada: "Characterization of the gcd gene from Escherichia coli k-12 W3110 and regulation of its expression." J. Bacteriol.175. 568-571 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M. Ameyama, K. Matsushita, E. Shinagawa, O. Adachi: Academic Press. Biochemical and physiological functions of pyrroloquinoline quinone in Vitamins and Hormones, 229-270 (1991)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K. Matsushita, O. Adachi: Marcel Dekker. Bacterial quinoprotein glucose dehydrogenase and alcohol dehydrogenase in Principles and Applications of Quinoproteins, 47-63 (1992)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より