研究概要 |
私達の研究室ではショウジョウバエのアミラ-ゼ重複遺伝子座には,多くのアイソザイム多型があるばかりではなく,その調節遺伝子に関しても遺伝的多型があり,それが適応度に強い影響力を持っていることを明らかにしてきた。本研究では,キイロショウジョウバエとその近縁種のアミラ-ゼ重複遺伝子のコ-ディング領域とその近傍の調節領域の塩基配列を調べ,多型的アイソザイム間の遺伝的違いと歴史,重複遺伝子座間の遺伝的違いと遺伝子重複の時期,共調進化の有無とその形成機構、キイロショウジョウバエ近縁種の類縁関係等を解析した。種内アイソザイム間の塩基配列の比較から一般的に言えることは,同一アイソザイム内の塩基配列の違いは,アイソザイム間の違いと較べるとはるかに小さく,アイソザイム間,特にAmy^1とAmy^6のように泳動度に大きな違いの見られるものの間では,塩基配列に大きな違いが見られ,これらアイソザイムは集団内に非常に長い間存在しているということを示唆している。しかし,現在までに得られたデ-タから,これらアイソザイムが何らかの平衡選択によって維持されている,と結論することは危険である。ランダムドリフトと突然変異率の平衡によって維持されてきたという可能性も否定することは難しい。はっきりした結論を得るためには,もう少しデ-タの蓄積が必要であろう。キイロショウジョウバエ近縁種の比較からは,アミラ-ゼ遺伝子の重複は,調べた5種全てに存在し,遺伝子の重複は,種の分化以前に生じたものであるということが明らかとなった。しかし,同種内の両重複遺伝子の塩基配列の類似性は,違った種の間の相同遺伝子間の類似性よりもずっと高く,同一種内の両重複遺伝子座間には,何らかの遺伝情報の交換があったことが強く示唆された。このような傾向は,コ-ディング領域内でのみ観察され,近傍のスペ-サ-領域では見られなかった。つまり,共調進化はコ-ディング領域でのみ観察されたのである。現在,その分子機構をコンピュ-タシミュレ-ションを使って解析中である。また,アミラ-ゼ遺伝子の調節機構としては,誘発能のようにトランスアクティングに働くものの存在も知られているが,我々はその有力な候補としてX染色体上のDMSNF遺伝子をクロ-ニングした。P因子形質転換法を用いて,この遺伝子が確かにアミラ-ゼの誘発能に影響を与えていることは確認したが,その詳しい働きや構造等に関しては,現在解析中である。ミスアクティングの調節を行うと考えられている5'上流の構造と機能に関しては,5'上流の配列の異なる形質転換個体を,P因子中介形質転換法によって作成し、その酵素活性を測定することにより,現在解析中である。この実験は,米国アリゾナ大学のDoane博士と協力で行っている。また,重複遺伝子の進化と共調進化の形成機構に関する理論的研究は,米国ペンシルバニア州立大学のHedrick博士と協調で行っているが,結論がでるにはもうしばらくかかりそうである。
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