研究課題
現地調査から判ったことは、シリヤ・インド両国とも研究が停滞していることであり、我々との交流が物心両面での刺激になっているとさえ言い切れる。とくに、(1)具体的事例の研究を通じて、技術移転や技術文化の問題として理論化する方法態度がない。これまでの交流関係では見えてこない点であった。総じて我々が積極的にリ-ドしなければ研究上の新地平はひらけないと印象づけられた。(2)ダマス鋼の技術が15世紀にペルシャに移転されて新局面を迎えたことをシリヤ博物舘の保管資料から確認した。これはいわば研究史上の新知見と言えるだろう。とくに技術移転の経路をめぐる問題では、インド→ペルシャ→シリヤという想定が美術工芸史の類推から当然とされていたのに、インド→シリヤ→ペルシャという地図ができあがるからである。(3)この問題は技術立地と資源との関係を検討するさいの重要問題にかかわる。つまり我々の関心である副原料(とくに木炭と水)の問題が、不思議なことに技術史論でも経済史論にも出てこない。研究上の空白地帯をなしている。ペルシャの研究は、副材料/資源と技術進歩の関係に新しい光をあてる契機になると思われるし、定設が修正されることなるだろう。またダマス鋼の副材料をめぐってシリヤでは、レバノンが木炭の供給源とされているものの、レバノンのどの地方の、何の木から造ったか、その製法についても特定されていない。我々は努力をかさねたが今回は特定できなかった。そこで改めて十九世紀末までのシリヤ(レバノンをふくむ)の植生地図、エコロジ-問題がダマス鋼の技術問題として浮上してくるのだが、この問題についての専門家はどうやら見当らない。隣接分野の研究業績の検討を用意することになる他ない。総じて、技術立地の資源条件という新しくて古い問題が移転経路問題として展開されてきた。
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