研究分担者 |
姚 海濤 佳木斯医学院, 医学系, 講師
王 舒 佳木斯医学院, 医学系, 講師
孟 丹 佳木斯医学院, 医学系, 講師
張 憲有 佳木斯医学院, 医学系, 講師
陶 富山 佳木斯医学院, 医学系, 教授
谷岡 書彦 高知医科大学, 医学部, 助手 (50236684)
森木 利昭 高知医科大学, 医学部, 講師 (10136377)
WANG Shu Jiamusu Medical College. Lecturer
MENG Dan Jiamusu Medical College. Lecturer
ZHANG Xianyou Jiamusu Medical College. Lecturer
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研究概要 |
本研究は主として環境要因に基づく脳の組織形成異常の発生機序を病理学的に解明することを目的としている。佳木斯医学院では黒龍江省にクレチン症多発村落があり,クレチン症による脳発達障害の発生機序の解明と適切な対策の確立が急がれている。このため,われわれは平成2年度,3年度に引きつづき人体剖検例および実験動物モデルの脳形成障害につき比較検討を試みた。本年度の主な実績は下記の通りである。 1.平成4年度派遣計画は交付申請書記載の通り実施された。原は8月佳木斯医学院において,平成2年度および3年度協力研究による人体および実験病理学的検索成績について講演とセミナーを行うとともに,今後の研究の進め方について討議した。また,クレチン症剖検脳について意見を交換した。一方,電子顕微鏡観察法についての実技を指導した。平成2年度,3年度にひきつずき,クレチン症多発集落(黒龍江省樺川県蘇家店鎮集賢村)における新しい患者の発生状況,患者の実態,村民の健康状況について報告を受けるとともに,佳木斯医学院附属病院および佳木斯中医学院において受診状況を調査,意見を交換した。 2.平成4年度佳木斯医学院からは孟 丹講師と姚 海濤講師を招へいし,ヨード欠乏,抗甲状腺剤によるクレチンラット脳,とくに小脳について共同観察した。また,上記のクレチン多発集落の作物と水で飼育した幼ラットについて小脳を免疫組織化学的に観察した。また,ヨード欠乏ラット内耳を走査および透過電顕により観察した。 3.地方病性クレチン症小脳皮質顆粒層の病理組織学的検討:地方病性クレチン症は胎生期より生後にわたるヨード欠乏が主因であり,身体発育障害と知能精神発達遅滞,聾唖,spastic diplegiaなどを生ずることが知られている。しかしながら,脳の病理形態学的変化についての報告は従来少ない。今回われわれはハルピン医科大学地方病防治研究中心の協力を得て中国黒龍江省の神経型地方病性クレチン症剖検例6例と対照4症例の小脳につき病理組織学的に観察するとともに,myelin basic protein(MBP),synaptophysinなどの発現を免疫組織化学的に検索した。神経型クレチン症小脳では皮質に発達障害が生じ,プルキンエ細胞の部分的消失がみられた。顆粒層では顆粒細胞密度が対照群に比し高かった。髄質のミエリン形成に著差はなかったが,分子層深部,顆粒層におけるMBPの免疫組織化学反応は著しく弱かった。また,顆粒層におけるsynaptophysinの反応が弱かった。これらの変化は,甲状腺機能低下症に基づく小脳皮質顆粒層の小脳糸球体発達障害,シナプスおよびミエリン形成不全などに関連しているものと理解される。 4.実験的甲状腺機能低下症ラットの小脳発達障害:実験的クレチンラット小脳皮質では,分子層が薄く,分子層および顆粒層糸球体におけるシナプスの分布がやや少ない,本実験では抗甲状腺剤投与ラット仔における小脳の組織発生障害について検索し,ヨード欠乏食飼育ラットの変化と比較考察した。Wistar系ラットを飼育繁殖用飼料で飼育,妊娠10日より母ラットに飲料水に抗甲状腺剤チアマゾールを25mg/dl添加し与えた。出生した仔ラットは母ラットに哺育させ,生後1〜28日にBrdUを注射後屠殺し,小脳を観察した。小脳は小さいが,分葉に異常はなかった。組織学的には外顆粒層の消失が遅滞し,細胞増殖が遅延する。小脳皮質は薄く,電顕的に分子層内のプルキンエ細胞樹状突起に棘の形成が少ない。内顆粒層では顆粒細胞の密度が高い。小脳糸球体の発達がわるく,synaptophysinの免疫組織化学的反応が弱かった。また,電顕的に小脳糸球体における髄鞘形成の不全がみられた。髄質にもミエリン塩基性蛋白の染色性が弱い。これら変化はヨード欠乏食飼育ラットとほぼ同様であった。なお,内耳の外有毛細胞や螺旋神経にも変化がみいだされた。 これらの知見の一部はすでに平成4年日本病理学会総会(仙台),日本先天異常学会(東京),第一回中日医学大学(北京)などで発表され,平成5年度の上記学会にも発表の予定である。 5.実験的検索と併行して,ヒト周生期死亡例,染色体異常疾患の脳について検索をすすめている。
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