研究課題
比較教育学班の今年度の調査目的は「漢族と少数民族とのあいだに見られる顕著な学力格差をもたらしている家校、家庭、生徒に関わる諸要因の究明」である。調査方法は数学の学力調査、生徒、教師、校長に対する質問紙調査、教師、校長に対する面接調査であり、調査内容は、IEAの問題に基づく学力調査、数学学習に対する態度、数学の教授内容などに関する質問紙調査、学習環境、生徒の家庭状況、校長、教師の教育観などについての面接調査であった。調査対象者はウルムチ、イニン両市の漢族、ウイグル族、カザフ族の中学生、計10校の生徒五百名であった。調査の結果、漢族とウイグル族・カザフ族の生徒のあいだに顕著な学力格差をもたらしている要因としては、教科書・参考書の不備、不十分な教師の資格・能力、少ない宿題、親の低い能力と熱意(子どもの学習への援助における)等があることが明らかになった。文化人類学班は各少数民族が「民族の誇り」を、行政、学校教育、家庭教育でいかに教育しているか、即ち「民族教育」を調査することが今年度の目的であった。具体的には、ウイグル族の民族舞踊、カザフ族の乗馬、シボ族の弓術の教育に的を絞り、自治区や各地域の文化庁・体育委員会・教育庁等を訪問し、民族教育の基本政策を明らかにした。学校教育では、幼小中学校9校を訪問して校長・教師の面接調査・授業参観を行い、19戸の家庭を訪問して、両親・児童の詳細な面接調査を行った。調査対象の特性に鑑み、映像の専門家を同行して実態をビデオに収録した。調査の結果、家庭で日常生活に習慣として織り込まれた「誇り」が学校教育では意識的に教授され、行政が普遍的な価値を付与するといった一連のプロセスの存在が明らかになった。さらに映像資料は3巻にまとめ福岡市博物館に収められ、広く市民に公開されている。
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