研究概要 |
本年度は、研究環境の整備がほぼ予定通り完了し、前年度に引き続き本研究の成果が得られつつある。まず前者については、最近の遺伝子発現制御研究に対応して、長期記憶におけるimmediate-early gene発現を検出する実験系の為にP2レベル実験室を構築し、組み替え実験が開始された。本年度に得られた主要な成果は、次の通りである。 1.「対連合課題paired association task」を用いて前年度に同定した連想ニューロン機構に引き続き、もう一つの記憶関連ニューロン機構として“Tuning"機構を下部側頭葉において発見した。コンピュータグラフィックスで生成したフーリエデスクリプタの振幅・位相を微小に変化させることによりサルが学習した最適図型に似た図形を創り出し、ニューロン反応は学習された図形に対して最大になることを示すことができた。 2.これらの結果を踏まえて、下部側頭葉における視覚記憶機構について包括的仮説を提出じた(Miyashita,Y.,Annu.Rev.Neurosci.16,245-263,1993)。 3.長期記憶におけるimmediate-early gene発現検出の為に、本年度は免疫抗体法によるスクリーニングを行った。記憶課題学習時のサル内側側頭葉において、c-fos,c-jun,jun-Bなどの蛋白発現量は少なく、用いられた抗体感度では検出できなかった。他方、zif様蛋白は明瞭な局在性の発現を示すことを発見した。現在,コントロール課題を用いて発現条件の同定を進めると共に、P2実験室において可能となったin situ hybridization法によりmRNAレベルの特異性を検討している。 4脳切片にpatch-clamp法を適用し、グルタミン酸を伝達物質とするシナプスにおいて量子解析を行い、従来の神経筋接合シナプスとは全く異なる伝達物質放出機構を見いだした。グルタミン酸作動性シナプスの長期増強メカニズム解析に重要と考えられる。
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