研究概要 |
研究環境の基本的整備はほぼ前年度に計画通り完了している。本年度に得られた主要な成果は、次の通りである。 1.下部側頭葉視覚連合野における記憶形成機構の一つとして2つの異なったアプロ-チにより"Tuning"機構を同定した。第一に、フラクタル図形の知覚的類似度を精神物理学的に計測するとともに新しいフラクタル図形に対する下部側頭葉ニュ-ロンの反応を記録し、新しい図形に対する反応選択性は学習された図形との複合的近似度によって定まることを示した(Miyashita et al.,1993)。第二に、フ-リエデスクリプタの振幅・位相を微小に変化させることによりサルが学習した最適図形に似た図形を創り出し、ニュ-ロン反応は学習された図形に対して最大になることを示すことができた(Sakai & Miyashita,1994)。 2.視覚的条件反応課題学習とともに海馬ニュ-ロン反応がどのように変化するかを解析した。この課題は脳弓切断サルにおいて顕著に障害される。サルが課題のル-ルを学習した後、新しい図形対に対する視覚的条件反応の形成過程を調べた。多くの海馬ニュ-ロンはサルが図形対の各々の図形に対して異なった条件反応を学習するとともに、図形対の各々の図形に対して異なった発火(P<0.01)をするようになった。3分の1以上の場合、有意なニュ-ロン反応の変化は、有意な行動学習の成立に先行していた。この事実は、海馬ニュ-ロン回路の内部において最初に条件反応の連合が形成されることを示唆するし、最終段階の長期記憶は大脳連合野に形成されるが、初期段階の記憶はまず海馬に形成される、との本研究者の仮説(Miyashita,1993)を支持するものである。 3.Immediate-early gene発現を免疫抗体法によって海馬及び近傍の皮質で検出した。c-fos,c-junに比べて、zif様蛋白は明瞭な局在性の発現を示す。ことに、presubiculum,entorhinal cortex,anterior inferotemporal cortexの一部に特徴的分布がみられた(Okuno & Miyashita,in preparation)。
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