研究概要 |
1.視覚記憶情報の下部側頭葉新皮質への貯蔵過程に、海馬が重要な役割を果たしている、との仮説を 直接的に検証するのに成功した。前年度に引き続き、対連合記憶課題を、単一ニューロン活動記録法 と組み合わせて使用している。本年度の実験では、慢性行動サル標本を用い、先ず、外科的手法によ り側脳室経由で前交連を切断した。霊長類では、左右両半球の側頭葉前方部を結ぶ交連線維は、全て 脳梁ではなく前交連を通る。前交連切断によって、左右両半球の側頭葉前方部は、独立に機能するこ ととなった。ここでさらに、イボテン酸を用いて選択的にサル内嗅野・傍嗅野を片側性に破壊した。 イポテン酸はエキサイトトキシックな化学物質であり、内嗅野・傍嗅野を通過する多数の投射線雑を 傷つけずに、細胞体のみを選択的に破壊することができる。以上によって、この慢性サル標本では、 片側の側頭葉において、海馬と高次視覚連合野である下部側頭回との神経結合を切断された。但し、 対側の側頭葉では海馬・下部側頭回システムは健常であり、個体としてのサルは対連合記憶課題を正 常サルと同様に学習出来た。この慢性サル標本の下部側頭葉新皮質から単一ニューロン活動を、内嗅 野・傍嗅野破壊の前後に記録し比較した。破壊後、下部側頭回単一ニューロンは光刺激に強くかつ選 択的に応答したが、ペア-インデックス(P1,Sakai&Miyashita.Nature 354、152-155,1991)は 有意に減弱した。しかし、最大反応強度、自発発火レベル、反応変動性などの反応インデックスは破 壊前より減弱しなかった。以上の結果は、下部側頭葉新皮質における連想記憶ニューロンの形成に対 して海馬が決定的に重要な役割を果たしている、との仮説を強く支持するものである。 2.サル海馬、内嗅野において、ZIF268を始めとするIEG発現に顕著な部位特異的パターンを見い出した。対連合記憶課題の学習によって下部側頭葉皮質にZIF268が発現してくることを発見した。
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