がん集団検診を対象に効用値の測定と費用効果分析を行った。 1.胃がん検診受診者に対する検診の効用値の測定 効用とは、健康状態や治療の帰結に対する患者自身の選好の度合を量的に表すもので、今回は評点尺度法を用いた。胃がんになる可能性が高いと思う者ほど検診偽陽性の効用値が高くなり、偽陰性および病院発見(自覚症状出現によって発見)の値が低くなる。また、検診発見胃がんの治癒確率に関する評価が高くなるにつれて偽陽性の効用値が高くなる。また検査の苦痛度に関する評価は効用値に明確な影響を及ぼしていなかった。以上のことから、検診に伴う便益と負担に関する自己評価が効用値を規定するという仮説がある程度証明された。 2.消化器がん検診に対する費用効果分析 大腸集検のスクリ-ニング法として便潜血テストの分析では、1日法より2日法が、また精密検査法として全大腸内視鏡によるものが最も費用効果的戦略であった。この場合の患者1名救命当りの費用は男で1000万円、女で1400万円であった。胃がん集検の場合1名救命当りの費用は男で約200万円、女で約600万円であった。胃集検では、65歳以上の男性で費用効果比が負に転じた。これは、胃がんの診断と治療に要する保健・医療の総費用が、検診によって削減されることを示すものである。 3.考察 がん検診受診者を対象に検診の各帰結に関する効用値を測定したものとしては今回の研究がわが国初の試みである。今後は、検診を受診しない者についての同様の調査が必要である。医学判断分析手法の多くは、欧米における文化や価値観を背景に形成されてきたものであるが、わが国の文化体系の中でも効用のようなソフトな指標を十分科学的に評価することが可能であることが今回の研究から示唆された。
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