研究概要 |
増殖因子受容体型チロシンキナ-ゼとして、PDGF受容体,インスリン受容体をとりあげて,その情報伝達機構,なかでもcーRafー1蛋白の活性化機構について検討した。cーRafー1蛋白は、セリン残基スレオニン残基に特異性を持つプロテインキナ-ゼであり、細胞性癌原遺伝子として細胞における各種機能の発現に重要な働きをしていると考えられている。我々はNIH3T3細胞にインスリン受容体cDNAならびにcーRafー1cDNAを発現させて、同一細胞で同時にインスリンとPDGFのcーRafー1に対する作用を検討した。このNIH3T3細胞をインスリンあるいはPDGFで刺激すると、cーRafー1の燐酸化は2〜3倍上昇、immuneーcomplex kinase assayではcーRafー1蛋白の燐酸化が上昇した。燐酸化されたcーRafー1蛋白の燐酸化アミノ酸を検討してみると、セリン残基スレオニン残基のみでありチロシン残基は見い出されなかった。すなわち、cーRafー1蛋白は増殖因子受容体型チロシンキナ-ゼの直接の基質とはなりえないと考えられた。次に、このcーRafー1蛋白のセリンスレオニン燐酸化が、cーRafー1蛋白の持つセリンスレオニンキナ-ゼ活性によるものか(自己燐酸化)あるいは細胞質に存在する他のセリンスレオニンキナ-ゼによるものか検討する目的で、cーRafー1蛋白のATP結合部位と考えられる375番目のリジンをアラニンに変異させたcーRafー1蛋白をNIH3T3細胞に発現させて検討した。Immuneーcomplex kinase assayでこの変異cーRafー1蛋白は予想通りプロテインキナ-ゼ活性を持たないことが確認された。この変異cーRafー1蛋白のNIH3T3細胞でのインスリンPDGFによる燐酸化を検討すると、正常のcーRafー1蛋白と同様に2〜3倍の上昇をみた。さらにペプチドマッピングによる燐酸化部位は両者でほぼ同じであることを認めた。すなわち、cーRafー1蛋白の燐酸化は自己燐酸化によるのでなく他のセリンスレオニンキナ-ゼによるものと推定された。
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