甲状腺ホルモン核受容体は、protoーoncogeneであるcーerbAにコ-ドされたタンパク質である。これには少なくとも4種類が発見されている。それぞれの蛋白は、細胞内で修飾を受けることにより、細胞の分化(甲状腺ホルモン受容体としての作用)と増殖(oncogeneとしての作用)の両者の機能を有すると考えられている。 cーerb Aベ-タはE.Coliによって発現させられ得る。これは、50kDaの蛋白であったが、甲状腺ホルモン結合様式は、nativeな甲状腺ホルモン受容体と同一であった。この蛋白は、核内に存在する燐酸化酵素によって特異的に燐酸化を受ける。一方、この蛋白にホルモンを供給する細胞質甲状腺ホルモン結合蛋白を我々は、発見した。この蛋白は、核受容体と、ホルモン結合機能において、類似性を有する。しかし、cーerb Aベ-タとは異なった蛋白であった。Vitamin Dはこの蛋白を増加させる。この作用は、実験動物および培養細胞で確認された。この作用は、DNA合成に著明な影響を与えない。したがって、Vitamin Dの作用は、この蛋白の合成を介した細胞分化として捉えられた。この作用は、Vitamin D受容体とそのresponse elementを共有するVitamin Aによっても認められた。しかし、cーerb Aベ-タの合成には関与しない。cーerb Aベ-タには細胞分化作用と増殖作用の両者があること、またcーerb Aとの類似性を有する細胞質甲状腺ホルモン結合蛋白には分化作用のみが認められることから、ホルモン結合機能を有する蛋白としての受容体には、少なくとも分化と増殖を独立して誘導する2種類が存在することが判明した。 今後、この両機能を受容体の構造上から分離し、これらを特異的に発現させ得るsystemを開発することにより、蛋白の構造と、分化、増殖への関与の機構が明確になるものと考えられる。
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