研究概要 |
初代培養細胞は一定の寿命を有しているが、継代を重ねていくと、一部は無限増殖の能力を獲得した、いわゆる不死性の細胞となることが報告されている。これは細胞の増殖機構を解明する上で重要な形質変化と考えられる。我々は分別的ハイブリダイゼ-ション法により、初代培養細胞と比較して、樹立細胞(Balb/C 3T3)で発現が顕著に増加しているmRNAに対するcDNAクロ-ンを4種類分離し、そのなかの1つが、カルシウム結合蛋白質Sー100とhomologyの高い,101個のアミノ酸からなる新しい蛋白質をコ-ドする事を報告した(J.Biochem.103,48ー53,1988)。Sー100カルシウム結合蛋白質はCaイオンの細胞内への流入に際して、細胞内シグナル伝達機構に関与し、DNA合成を促進することが知られている。不死化した細胞でSー100類似の新しい蛋白質が増加していることから、これが細胞の不死化にともなうG_0期からG_1期へ、さらにS期への移行において重要な役割を果している可能性が考えられる。そこで、このクロ-ンを大腸菌での発現ベクタ-に挿入し、この蛋白を大量に発現させ、SDSーPAGEで単一なバンドに精製した。この蛋白は分子量10kDaでpH4.5の等電点をもっており、Ca結合活性が確認された。我々はこの蛋白質をウサギに免疫し、抗体を作成し、細胞の増殖過程におけるこの蛋白質の動態を解析している。更に、このクロ-ンを真核生物発現ベクタ-(SRαプロモ-タ-やメタロチオネインプロモ-タ-)に組込み過剰に発現させ、細胞内へのCaイオンの流入とDNA合成開始との関連を調べ、この蛋白質の機能を解析している。
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