霧は地表近くで発生し、液滴径が小さいために単位体積当りの表面積が大きく、汚染物質を吸収しやすいことに加えて、液滴の成長による希釈効果も小さいので、高い酸性度を有している。本研究においては、関東平野南西部に位置する丹沢山塊の大山において霧を採取、分析し、霧という形態による酸性降下物の環境影響の特徴を明らかにした。 1988年7月から1990年8月までの約二年間の大山の霧のpH範囲は2.61〜7.00であり、平均pH値は3.95であった。1990年3月から8月までの大山の雨と霧を比較すると、イオン強度は9.2倍、水素イオン濃度は4.1倍、雨よりも霧の方が高かった。大山においては春先と梅雨に霧が発生しやすく、この時同時に霧の酸性度も高いが、秋から冬にかけては霧はあまり発生せず、pHが高くなる傾向を示した。これは、霧を酸性化する硫酸や硝酸の原因物質である二酸化硫黄と窒素作化物の酸化剤となる水酸ラジカルや過酸化水素の濃度の季節変動によるものだろう。 霧水の液相内濃度と霧水量の積として得られる霧水成分の大気中濃度の経時変化を調べたところ、最初の数時間のうちに急激に減少することが明らかになった。この成分量の減少は、地表あるいは樹木への霧水の沈降により大気中から除去されたことによると考えられる。霧のこの作用は、空気を洗浄にしている反面、地表や植物表面に汚染物質を高濃度で負荷している。霧による汚染物質の負荷量の絶対値は雨に比してかなり小さいが、霧発生ののち短時間の間に、高濃度の汚染物質が植物の葉に沈降し、しかも雨のように洗い流されることもほとんどないまま葉に付着するので、極めて大きな植物への影響が予想される。大山で滑昇霧が発生するときの風上にあたる伊勢原市の大気汚染物質濃度は全国的に見てほぼ平均的なレベルであることから、このような酸性霧は全国的に発生し、様々な環境影響を起こしていることが予想される。
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