研究概要 |
環境に存在する突然変異原の正体と、その突然変異誘発機構を解明することは、人間環境を保全しようと考えるとききわめて重要な研究である。変異原が遺伝子DNAにどのような損傷を与え、それがどのようにして突然変異に至るかを明らかにするためには、変異原によって誘発された変異体の塩基配列の変化を知ることが必須である。このような目的のために、本研究では、シャトルベクタ-pZ189を用いることとした。先ず第一に、pZ189の変異体同定を容易にかつ安価で行うために、宿主大腸菌を改良した。pZ189上のSuPF遺伝子(約150塩基対の長さ)を標的とすると、自然突然変異の頻度は1.6×10^<ー7>となった。自然突然変異の仕組みを理解するために、変異体の塩基配列変化を12クロ-ンについて調べたところ、IS因子挿入によるものが7個、塩基置換が3個,フレ-ムシフトが1個となった。今後は解析数を増やし、自然突然変異誘発の機構を塩基配列のレベルで明らかにしたい。 上記実験系を用いて、環境変異原の作用機構を明らかにすることとした。多くの環境変異原は最終作用原として活性酸素等のラジカルを生成することが知られるようになってきた。そこで、脂質過酸化反応で処理したpZ189を用いることで、ラジカルがDNAにどのような突然変異を生成するかを調べることとした。脂質過酸化処理したpZ189を宿主大腸菌に感染させ、SUPF遺伝子の突然変異を調べたところ3.5×10^<ー7>の頻度で9クロ-ンについて突然変異体をえた。今回改良したpZ189の実験系では、従って、10^<ー7>の頻度のような低い突然変異の誘発でも容易に変異体を分離することができることがわかった。今後は、変異体の数を増やし、脂質過酸化による変異誘発が自然突然変異とどのようにちがうかを明らかにし、同時に塩基配列変化を知ることで、脂質過酸化による突然変異の機構を明らかにしたい。
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