水銀に対する耐性を示す水銀耐性菌に関しては、疫学、遺伝学、生化学的な立場から、すでに多くの研究が報告されている。水銀耐性菌は2価の水銀イオンを還元して金属水銀にする水銀レダクタ-ゼを産生して、水銀レダクタ-ゼによって金属水銀を気化することで水銀耐性を示す。この水銀耐性遺伝子操作の手法を用いた遺伝解析によって、水銀耐性遺伝子はmerオペロンのオペレ-タ-・プロモ-タ-領域RNA合成を制御するinducer proteinの合成を支配するmerR、Hg^<2+>のとり込みを支配するmerT、そしてレダクタ-ゼの構造遺伝子のmerAの三つの部分から成立することが明らかにされている。この遺伝子のうちmerTのみをもっているKP245(pRR134)では感受性菌には認められないHg^<2+>の輸送機構のみをもち、水銀レダクタ-ゼの生成能がないために水銀を余計にとり込んでしまう分だけ水銀に対する感受性が高くなることが知られている。 本研究では、これらの人工的に得られた高感受性変異株に認められる水銀の細菌細胞への結合能力の増加を利用し、低濃度の水銀を含む産業排水等の処理を目的とした開発研究を行った。 水銀耐性遺伝子をもつプラスミドNR1をEcoRI制御酵素ヌクレア-ゼでプラスミドDNAを断片とし、水銀耐性遺伝子のある部分の断片であるEcoRIーHをプラスミドColE1にクロ-ン化して得られたKP245(pRR134)は、Hg^<2+>に対して高感受性というべき感受性菌よりも高い感受性を示した。 遺伝子操作によって得られた水銀高感受性菌を2μMの ^<203>Hg^<2+>を加えた普通ブイヨン中に保温させておくと、前もって微量のHg^<2+>で誘導した高感受性菌であるKP245(pRR134)では、非誘導のKP245(pRR134)や感受性菌のKP245(pRR132)と比べて5〜6倍も多く ^<203>Hg^<2+>が細胞と結合した。 今回、我々が行った実験では、すべての水銀高感受性菌が水銀に対する高い結合能を示した。その結合能の高さは感受性菌の5〜8倍もあり、普通ブイヨン中に2μMという低濃度のHg^<2+>を80〜90%も菌体内に取り込んでいる。このことは工場廃水の処理や環境汚染の浄化に役立つ可能性を示唆している。
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