本研究では、水素の消費をできるだけ少なくし、技術的に問題の多い高圧水素ガスを使用する液相水素化工程の反応条件をできるだけ温和にして、なおかつ液化物収率の増加をはかるという原理的に相反する要求を、液化プロセスの複合化(前処理プラス水素ガスにする水素化)によってある程度解決することを目的とする。本年度はWandoan炭とYallourn炭について、各種超臨界または凝臨界流体による抽出(前処理)を400℃、20〜60MPaの条件下で行ない、操作条件、溶剤の種類、反応機構などについて検討した。 その結果、水素供与性溶剤(テトラリン、テトラヒドロキノリン)と水素非供与性溶剤(ベンゼン、水)では抽出(前処理)機構が本質的に異なることがわかった。すなわち水素供与性溶剤を用いた場合は抽出は通常の液化と同じようにdafベ-スで100%まで進行するのにくらべて、水素非供与性溶剤を用いた場合には抽出(前処理)は短時間で終了して平衡値に致達するという傾向を示した。またメタノ-ルは両者の中間的挙動を示した。これらの結果を数学的モデルを用いて速度解析し、前処理各過程の速度定数を計算し、水素供与性溶剤中では前処理は逐次反応的に進行するが、水素非供与性溶剤中では並発反応的傾向が強いことを明らかにした。またメタノ-ルによる前処理に対する圧力効果の定量から、メタノ-ルが反応系にとり込まれる可能性(水素難供与性溶剤)を指摘し、石炭とメタノ-ルとの反応機構について考察を行ない、水素を消費しない分をプロセスのその他の反応条件の苛酷化によって補うという観点からみたメタノ-ルの将来性を示唆した。また水の効果は本年度の実験では否定的であったが、水と水素供与性溶剤との間に上部完溶点の存在する可能性を明らかにし、水の効果を期待するために前処理条件をさらに高温高圧化する必要性を指摘した。
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