新しい有機強誘電体の候補物質として、本年度は、主に水素結合鎖を有する分子固体を合成し、誘電特性を含む基礎物性を研究した。具体的には、両末端に、ーC=0基と=CーOH基を有するオキソカ-ボン系分子、Squaric Acid(H_2SQ)、Cycrohexanedione(CHD)、Phenylmalondialdehyde(PMDA)、Dimedone、Naphtalenone等の単結晶を育成し、それらの赤外ー紫外吸収スペクトル、ラマン散乱スペクトル、誘電率、電気伝導度を温度及び圧力の関係として測定した。その結果、以下のような成果を得られた。 1.特に、二次元強誘電性を示すSquaric Acid結晶については、初めて温度ー圧力相図を完成した。また、圧力下での赤外吸収バンドとラマンバンドの強度変化や同位体置換効果等からプロトンーπ電子系の動的特性を明らかにした。 2.また、一次元強誘電性の発現が期待できるPMDAなどの分子固体については圧力下での分光測定を進めた。その結果、高圧下でのプロトン格子の無秩序化の証拠をとらえ、これによって強誘電(常圧下)ー常誘電(高圧下)相転移を起こしてしることが推論された。また、一次元系の特徴を反映して、ドメイン壁(ソリトン)励起による新しい赤外振動、及びπ電子吸収帯を見いだした。
|