直径約23μmのポリアクリロニトリル(PAN)繊維を220℃で酸化処理し、1規定NaOH溶液で加水分解して作成したPAN系ゲル繊維を、pHの異なる溶液に浸しその時の伸縮応答性を調べた。その結果pHを0から14に変化した場合の伸縮応答時間は約2秒と速いが、この伸縮応答特性において、pH変化幅を変えると、応答時間は著しく変化する。pH変化に対してゲル繊維が収縮応答する特性時間のpH変化幅依存性は、pH変化幅が小さくなる程、収縮応答性は悪くなる。しかし、pH変化幅が4以上になると収縮応答時間はほぼ一定値を示す傾向にある。即ち、pH変化幅が大きな領域では、ゲル繊維の収縮応答時間は主にゲル繊維の太さに依存するが、pH変化幅が小さな領域では、pH変化によるポテンシャルエネルギ-の差が大きく影響すると考えられる。ここで、ゲル繊維が浸漬されている溶液のpHを電気刺激により変化させることにより、ゲル繊維の伸縮応答性を調べた。白金電極存在下にゲル繊維をハイドロキノン/キノン水溶液中に浸漬し、約1.5Vの低電圧を印可すると、ゲル繊維は40%収縮した。電極の極性を逆にすると、ゲルはゆっくりと膨潤し、約12時間後で平行に達した。この溶媒の酸化還元系におけるゲル繊維の伸縮応答性は、酸・アルカリ溶液交換系におけるゲルの伸縮応答性に比べて、著しく遅い。これは、電気刺激で溶液のpHが変化する幅が狭いことに大きな原因があると考えられる。電気刺激などの外部刺激により、ゲル繊維が浸漬されている溶液のpHが大きく変化する電解質溶液を用いて、ゲル繊維が素早く伸縮応答する人工筋肉システムへ改良する必要がある。
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