研究概要 |
本研究は,クラスタ-および分子集団の示す諸機能がそれらの構造とどのような相関関係にあるかを,理論化学的立場より解明し,クラスタ-の発現する諸現象の理解に役立つ新しい概念を構築することを目的としている.本年度は,静電的な力と電荷移動力の重複によってできるマイゼンハイマ-型イオン・クラスタ-に注目し,構造とその安定性を論じること,実験と従来の理論計算との間にくい違いのあるカルボニウムイオン・クラスタ-C2H7+の赤外吸収スペクトルを理論的に説明すること,第3周期以降の元素を中心原子とする5配位化合物の擬回転反応の機構を解明することを明的とした.電荷移動型のイオン・クラスタ-として,最近注目を集めているマイゼンハイマ-型錯体をとりあげ,ab initio分子軌道法を用いてその構造と安定性を解明した.C6F6+F^ーの求核置換反応の中間体として,気相中でマイゼンハイマ-錯体の形成を理論的に予測し,反応のポテンシャル曲面より,電荷移動型と静電力による錯体の安定性を議論した.また,マイゼンハイマ-型錯体を形成する電子供与体,電子受容体を理論的に探索し,テトラフルオロキノンとハロゲン,テトラシアノエチレンとハロゲン,ニトロベンゼンとハロゲン等がマイゼンハイマ-型錯体を作るものと予想され,現在,カナダのP.Kebarle教授が実験的に検証している.最近,2色レ-ザ-法によりブロトン化エタンC2H7+のCH伸縮振動スペクトルが得られている.スペクトルは圧力依存性を示し,2種類のものが得られている.これまで,プロトン化エタンは,classical open,nonーclassial bridgedの2種類の異性体があることが理論的に予測されているが,理論計算により,van der Waalsタイプの新しい異性体を見つけ,理論計算により3種類の異性体の振動解析を行い,基準振動とそれらのcombination bandsおよび振動強度から,実験結果を矛盾なく説明することができた.
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