準結晶は非整合な構造を持つが、その非整合性のスケ-ルが結晶学に許されない回転対称性による幾何学的な制限によって決定されている。そのスケ-ル比を有理数で近似することで、準結晶と局所的に類似な周期構造を得ることができる。これを近似結晶と呼んでいる。20面体型準晶(Iー相)はMgーAlーZnを始めとする菱形30面体型準結晶とAlーMnーSiを始めとするマッカイ20面体型準結晶に分類できる。前者にはFrankーKasper相(FKー相)、後者にはαーAlMnSi結晶相が近似結晶(Aー相)として存在することが知られている。本研究ではMg基のIー相、FKー相およびAー相の原子構造を中性子回折ならびにX線回折で観察しその相違と物性との関連を議論した。 熱処理を行ない良質化したI相とFK相合金の中性子回折ならびにMokαを用いたX線回析によって求めたRDF(r)とBergman et al.が求めたFK相の結晶構造より計算した原子対相関との比較を行った。実験より求めたFK相のRDF(r)は計算によって求めた原子対相関をよく反映しており、またI相のRDF(r)も10Aの範囲内でFK相のデ-タと極めてよく一致していることがわかった。ところが、50A領域までG(r)を比較してみると、ある特定の領域で位相のずれと構造の差が認められ、しかも FK相の格子常数である17Aあたりで最初の不一致が生じていることが聖らかになった。この特徴は本研究で調べた全てのI相とFK相の間に認められた。これに対して、A相とI相のG(r)は50Aまでこのような目立ったずれは観察できなかった。電気伝導特性におけるFK相の平均自由行程A_Fは常に10ー15Aであるのに対し、A相のA_Fの値がI相と変らない小さな値を持つ。このことはFK相において周期性を回復するスケ-ルがちょうど平均自由行程A_Fの大きさになっていることと深い関係があることを示唆しており、構造の特性が物理的性質をある程度反映しているものと考えられる。
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