弾性定数は試料中のある種の欠陥の性質をよく反映するなど、物質の性質を研究する上での重要な物理量である。しかし、測定には大きなサイズの試料が必要であるなどの理由から、準結晶についての研究はあまり行われてこなかった。AlーLiーCu系の準結晶は大きいグレインのものを作ることができ、弾性定数の測定が可能である。本研究はブリッジマン法で作成したAl_6Li_4Cu準結晶の音速の温度依存性を測定したものである。測定はバルスエコ-法で行い。10MHzの縦波を用いて、2〜200Kの温度範囲で行った。多くの固体では音速は格子の非調和性により単調な負の温度逆存性を示す。我々が測定したAl_6Li_4Cu準結晶では、50K付近で音速υがピ-クを持ち、それ次下の温度では正の温度依存性を示す。温度による音速の変化率dυ/αTは低温になる程小さくなり、OKでは温度依存がなくなるように見える。準結晶の他の物性はよく非晶質固体のものと比較される。非晶質固体の場合にも数K以下で音速に正の温度依存性を示す領域があらわれ、音速の相対変化量Δυ/υが温度Tの対数に比例する。我々の結果はΔυ/υがtanh(E/2kT)に比例する形をしている。この結果は、非晶質固体同様に2準位系が存在するが、準位間のエネルギ-差は分布しておらず一定値Eをとると考えることが説明できる。測定結果に合うようにパラメ-タ-を決めてやると、2準位系の準位間のエネルギ-差Eは60Kとなる。2準位系の密度はこの実験だけでは求められないが、音波と2準位系の相互作用の大きさ(即ち、deformation potential)が1eV程度とすれば、密度は3×10^<25>/m^3となる。2準位条の原因としては、フェイゾンのような準結晶中の欠陥が候補として考えられるが、熱処理条件や試料の作成条件に対する依存性を詳しく調べる必要があり、今後の問題である。
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