食品蛋白質からは多様な生理活性ペプチドが派生することが見い出されてきた。これらの生理活性物質を食品成分として有効利用するためには、それらの効率的な生産方法を確立すると共に、吸収され難く、分解されやすいというペプチド性生理活性物質の一般的特性を克服するための利用技術の展開が必要である。この目的のために、ペプチドの酵素的修飾および遺伝子操作的修飾を前提としたアミノ酸残基の化学的置換を試みた。 casoxin D(YVPFPPF)は人乳α_<S1>ーカゼインから派生するオピオイドアンタゴニスト・回腸収縮・動脈弛緩物質であり、SHRSPに対して降圧作用を示す。Nー末端Tyrを除去して得たVPFPPFもほぼ同等の動脈弛緩活性を示した。本ペプチドに相当する配列は牛乳α_<S1>ーカゼインではTDAPSFとなっておりホモロジ-は低い。一方、牛乳βーカゼイン中にはVVVPPFおよびVMFPPQという、本ペプチドと2残基のみ異なる配列が存在する。そこで類縁ペプチドを合成したところ、VVFPPFは人乳のVPFPPFより数倍強い活性を示した。またVMFPPFは数分の1の活性を示した。このことは牛乳βーカゼインcDNAの部位指定塩基置によってVal^<84>→Phe変換を施すことにより、降圧ペプチドを牛乳βーカゼインに移植できることを意味している。 casoxin C(YIPIQYVLSR)は牛乳κーカゼインのトリプシン消化によって派生する多機能性物質であり、オピオイドアンタゴニスト活性、回腸および動脈収縮活性およびアンジオテンシン転換酵素(ACE)阻害活性を持っている。C末端Argをカルキシペプチダ-ゼBによって除去することによって、そのACE阻害活性は約2倍になり、他の活性は消失する結果、降圧作用は増強される。同様な現象がC末端にArgを持つ他のACE阻害ペプチドにも見られるかを検討したが、casoxin Cに特異的な現象であることが判明した。
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