今年度も個々の人間を最小の構成要素とする人口学的マイクロシミュレ-ションを実行した。ただし、昨年度の1次元空間上に集落を配置したモデルを2次元空間上へと拡張したものを用いた。このモデルにより、人口支持力と人口増加時の再生産率(NRR)を変化させた場合、ある集落とそこから3つ離れた集落に人口が拡散するまでの速度と、人口の安定性を検討した。分析結果は以下のとおりである。 1.拡散速度はNRRが増大するにつれて大きくなり、また、人口支持力が小さいほど大きくなった。50人と200人では、NRRが1.0098のときは前者が3セルあたり約3350年、後者が約7870年とおよそ1/2倍の速度を示したのに対して、NRRが1.2763のときは前者が約640年、後者が約790年となった。 2.人口増加時のNRRが1.0098のとき、全セルが消減した回数が371回も観察された。偶然変動により途中で消減あるいは「空き」がある水準まで人口数が減少することがあり、これが全体のNRRの水準を人口増加の状態にとどめる作用を促したものと考えられる。したがって、セル数を増やす、初期人口を配置するセルを長方形の島の一辺に一列に並べる等の他の実験デザインが必要であろう。 3.本モデルによると人口拡散は1000年間でわずか143kmにすぎない。したがってこれをそのままモンゴロイドのアメリカ大陸への拡散にあてはめることは既存の結果といちじるしく異なるため困難である。今後、NRRをさらに大きくしてみた場合についても試行実験を行ってみる必要があろう。
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