YBCOの銅原子は鉄、コバルト、ニッケル原子で置換することができる。これら不純物の固溶範囲は、コバルトが最も広く、ニッケルが最も狭い。結晶系は鉄、コバルトの置換によって、斜方晶から正方晶に変化するが、ニッケルでは変化しない。メスバウア-効果、中性子回折の測定から、鉄、コバルトは主にCu1サイトに、ニッケルはCu2サイトに分布することが判明した。これら固溶不純物は、通常の熱処理では、各々のサイトでランダム分布している。また、超伝導転移温度は、これら不純物の置換により低下する。しかしながら、純窒素ガス気流中高温で還元した後、純酸素ガス中低温で再酸化すると、鉄、コバルトの場合、斜方晶相の安定領域が通常の熱処理の場合より4倍近く拡大し、しかも低下していた超伝導転移温度が回復する傾向があることを見いだした。色々の実験手段、これは、高温還元により、これら固溶不純物がクラスタ-化し、その状態を保ったまま低温酸化することにより、結晶中の不純物を含まない領域が拡大するためであると判断される。すなわち、固溶不純物の分散形態を、熱処理により制御することが可能であることが判明した。つづいて、クラスタ-化した固溶不純物が、良いピニング中心として機能するかどうかを検討したところ、同じ組成では、確かに、クラスタ-化させた方が、通常の試料よりピニング力が上昇したが、不純物置換による超伝導特性の劣化による効果の方が大きく、不純物を含まないものに比して、ピニング力が弱くなることが判明した。超伝導特性を劣化させない程に固溶不純物をクラスタ-化させる反応を開発することが今後の課題である。
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