地球上の様々な海域を広く覆う下層雲は、海面や大気境界層内の放射フラックスを大きく変化させ、グロ-バルな大気・海洋のエネルギ-交換にも大きな影響を与えていると予想される。下層雲の性質は海域や季によって変化するが、本研究では暖候期のオホ-ツク海・北西太平洋域を覆う下層雲を扱う。この海域の特徴として、初夏周囲の大陸上に比べ海面温度が低温に保たれること、大気境界層内にオホ-ツク海気団と呼ばれる寒気層が発達することがあげられる。下層雲は、これら大気・海洋の特徴をつくりだす重要な要因のひとつと考えられる。 本研究の目的は、衛星の雲画像を活用して、この海域の下層雲の動態を明らかにすると共に、下層雲が放射過程を通じて大気・海洋に与える影響を定量的に検討することである。本年度の成果は以下の通り。 (1)下層雲は海洋が受け取る日射量を大きく減少させる。この効果を定量的に調べるため、GMSの可視画像から地表の日射量を推定するモデルを開発した。実測値に対する推定値の標準誤差は〜30W/m^2(〜15%)であった。下層雲に覆われたオホ-ツク海域の日射量は、隣接する大陸上に比べかなり少なくなっていることがわかった。 (2)下層雲が日射を吸収し大気境界層を加熱する効果を、(1)と同じデ-タを用い検討した。1988年7月のオホ-ツク海域の加熱率は〜1.5K/dayと見積られ、下層雲による日射の吸収は、下層雲雲頂の放射冷却による大気境界層の〜5K/dayの冷却を弱める働きをしていることがわかった。 (3)東北大の大型計算機センタ-のNOAA雲画像デ-タベ-スから、電話回線を通じてデ-タを取得する簡単なシステムを作った(購入した備品を利用)。現在デ-タを収集しつつあり、来年度以降NOAA画像の高分解能性を利用して、下層雲の構造の解析を行ないたい。
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