研究概要 |
繊維強化ガラス基複合材料はセラミック系複合材料の中でも最も実用に近い材料である。本年度の研究では,高破断歪,高柔軟性をもつランダム配向短繊維化ガラス基複合材料の熱衝撃特性,とくに熱衝撃後の破壊メカニズムの検討を行った。面内ランダム配向不連続カ-ボン繊維シ-トを用い,溶剤中に研濁したボロシリケ-トガラス粉末のスラリ-中を通した後,乾燥・積層し,ホットプレスを施し複合材料板を作製した。繊維はほぼ2次元ランダム配向している。繊維体積含有率は30〜35%,空孔体積率は1〜3%である。成形温度の異なる2種類の試験板(611,634)を製作したが,前者は後者にはない微小なマトリックス亀裂がランダムに発生している。試験片を赤外線加熱炉で所定の温度にまで加熱し、水中急冷により熱衝撃損傷(△T=550℃)を与えた。次に損傷後の引張り応力(荷重)ー歪線図を測定した。またAE測定,解析も行った。熱衝撃後のマトリックス亀裂はほぼ面内ランダムに発生いていた。超音波顕微鏡(SAM)観察によると,マトリックス亀裂は表面部にのみ存在し,繊維/マトリックス界面の剥離も引き起こしていた。 熱衝撃を受けていない634試験片の引張り応力ー歪線図は著しい非線形性を示すが,(1)初期弾性域,(2)降伏域,(3)擬加工硬化域の3段階に分けられる。このような降伏現象は,比較的低応力時から全幅にわたる荷重方向に垂直なマトリックス亀裂が発生することによることが知られている。これに対し,予め微小なマトリックス亀裂がランダムに発生している611試験片では,降伏現象は暖やかに生じており,単なるknee(屈曲)点が見られる。また,熱衝撃後の634試験片では初期弾性率は熱衝撃後やや低下するだけであるが,降伏現象は緩やかに生じており,むしろ611試験片の挙動に近い。引張り試験中の累積AE事象数,AE振幅分布の変化も,以上の観察結果とよく対応した。
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