研究概要 |
昨年度に引き続きケテンシリルアセタ-ルのマイケル付加反応について検討した。その結果,有機スズトリフラ-トの触媒作用によりβ,β一二置換ケテンシリルアセタ-ルとβーβ一二置換ーαーエノンの反応がスム-ズに進行し隣接四級炭素を有する1.5ーケトエステルが収率良く生成することが分かった。隣接四級炭素骨格の構築は容易ではなく従来様々な試みがなされてきたが満足すべき方法は得られていなかった。本法によって、極めて簡単な操作によりこの問題を解決する手段が提供されたことになり、合成化学的意義は大きいと言える。さらに驚くべきことには、等量のβ一位二置換および一置換(または無置換)ケテンシリルアセタ-ルを用いて競争反応を行うと二置換体が圧例的に速く反応することが判明した。この種の反応はケテンアセタ-るの求核付加により進行するものと何の疑いものなく信じられてきた。しかしここに明らかになった結果は求核反応では説明できない。我々はこれに対して一電子移動によって開始されるラジカル機構を提出した。すなわち、ケテンシリルアセタ-ルからルイス酸に一電子移動が起こり前者からはαーカルボアルコキシラジカルが発生し、一方ルイス酸から派生したラジカルはエノンに1.4一付加して金属エノラ-トラジカルが生じる。これらのラジカル同志がカップリングすることで立体的に込み合った隣接四級炭素骨格でも何らの支障なく生成する。このようにケテンシリルアセタ-ルが容易に一電子酸化されること、ルイス酸が一電子還元されることはまったく予想外のことである。しかし、ストップドフロ-法、サイクリックボルタメトリ-を用いることによって、これらの酸化還元が容易に起こることを明らかにした。これらの事実により、関連する反応の機構解明に関する研究は重大な見通しを迫られるであろう。
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