研究概要 |
AIDS患者には神経系の疾患が多発し深刻な問題となっている。PML(進行性多巣性白質脳症)は、潜伏していたJCウイルス(JCV)が神経系細胞内で増殖することによっておこる脱随疾患である。HIV感染者におけるPMLの発生頻度は極めて高く、またその病像も激しいものとなっている。この原因を明らかにする目的で、PMLで死亡した日本人および米国人AIDS患者脳組織からJCVのDNAを分子クロ-ニングし、その制御領域遺伝子を解析した。その結果、1,PMLから分離されたJCVの制御領域のnt.90(Mad1)より上流の領域が、JCVの神経細胞でのエンハンサ-活性の誘導に重要な働きをしていることがわかった。またnt.60からnt.90(Mad1)の領域にもエンハンサ-エレメントが存在することがわかった。2,末梢血単核細胞、CSF細胞に、JCVDNAが存在していることが明らかになり、血液リンパ系細胞においてJCVが持続または潜伏感染している可能性が示唆された。3,PMLからクロ-ニングされたJCV制御領域は、健康人尿からクロ-ニングされたJCVと比較してDNAの欠失と挿入が起こっており、特にnt.90(Mad1)より上流部域に大きな変異が見られた。AIDSーPML患者脳からは、この領域に異なる変異を持つた複数のクロ-ンがいずれの患者からも得られ、HIV感染にともなって、JCVの制御領域に高率に変異が起こっていることが明らかになった。以上の結果から、HIVの感染増殖によってJCVの制御領域に変異が起こり、神経病原性が変化したウイルスが生じて、PMLが多発するようになる可能性を示したものと考えられ、JCV感染モデル動物を開発して確かめる必要がある。
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