本研究は、動物の形態形成のいろいろな場面で現れる間充織ー上皮転換の機構を、分子のレベルから解析することを目的としている。この転換において、上皮組織における細胞接着装置の構築は特徴的な現象の一つである。アドヘレンス・ジャンクション(AJ)は、このような接着装置の一つで、細胞質領域でアクチンを含む細胞骨格系と結合していることから、上皮構造の構築と維持と重要な役割を果たしていると考えられる。細胞接着分子カドヘリンは間充織機造をとっている細胞においては細胞表面全体に分布し接着分子として機能しているように見えるが、上皮組織が形成されるとAJに濃縮することが知られている。また、この分子の細胞質領域にはいくつかの細胞質因子が結合し、それらはカドヘリンの接着分子としての機能を制御する可能性も示唆されていた。本年度は、先ず、このカドヘリン結合タンパク質がマウスから単離したAJに濃縮していることを明らかにした。さらに、その中で102kDの分子量を持つもの(CAP102)について、タンパク質の部分精製、特異抗体の作成、cDNAのクロ-ニングに成功した。その結果、この分子の一次構造は、AJの主要構成タンパク質であるヴィンキュリンと有為な相同性を示した。ヴィンキュリン分子についてはこれまでにいくつかの機能が明らかにされており、それぞれの機能について必要な分子内の領域が決定されてきたが、CAP102が相同性を示す領域はちょうどそれらの領域と重なっており、この分子がヴィンキュリン分子と同様AJにおいて主要な役割を果たしていることが示唆された。今後、遺伝子工学の手法用い細胞内や細胞接着装置でのCAP102の役割の解析、他の細胞質因子との相互作用などについて解析が可能になると思われる。
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