研究概要 |
大腸菌のIHF(integration host factor)蛋白は、DNA上の特異的塩基配列に結合することによって、遺伝子発現、DNA複製、組換え等、さまざまな現象の制御にあずかることが知られている。我々は大腸菌繊維状ファ-ジのDNA複製がin vivoにおいてIHF蛋白によって正に制御されていることを見出したので、その作用機構を明らかにすることが本研究の目的である。 このファ-ジの複製開始域はcoreとenhancerの二領域から成り、coreには複製開始蛋白(gpII)が結合し、enhancerにはIHFの結合配列と思われるものが3個(左から順に1,2',2"と呼ぶ)存在する。Footprint法を用いた実験結果によれば、IHFは1には強く結合するが、2'及び2"には極めて弱い結合しか示さない。我々は欠失変異を用いて、複製の促進には1のみでなく、2'と2"を含む領域が必要なこと、また1と2'の間の距離を変化させると10塩基対の周期で複製頻度の変動がみられることを明らかにした。これは、IHFが1のみでなく2'もしくは2"への弱い結合によりDNAの高次構造変化を通じて複製にあずかることを示唆している。 我々はさきに、IHFに依存せずに複製できる変異ファ-ジを分離し、これらがgpIIの変異であることを明らかにしたが、本年度においてはこのような変異体の性質を詳細に研究した。特に、これら変異gpIIは野性型と異なり、負超螺旋度の低いDNAに対しても高いnicking活性を示すことを見出した。これらの結果は、(1)IHFが複製開始反応における最も早い段階、すなわちnickingによるprimer形成を制御すること、(2)IHFがDNAの超螺旋構造と類似の機構によって複製開始反応を促進することを示唆するものである。
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