近年、大阪大学の柳田らおよびスタンフォ-ド大学のJ.Spudichらの行ったin vitro motility assayによれば、ミオシンの構造だけでなく細いフィラメントの構造、特にそのフレキシビリティ-が筋収縮において重要な役割を演じている可能性が高い。そこで本研究では、アクチンの二次元結晶を作製し、高分解能微細構造デ-タを収集して、「構造のゆらぎ」を検出することをめざす。 1 良質の二次元結晶の作製: まず溶液中で、アクチン・トロポミオシン・トロポニン複合体のマグネシウム・パラクリスタルをCa高濃度下(ミオシン頭部と結合可能な活性状態)で作製し、最良の結晶化条件を探した。次にこの結晶化条件を参考にして、脂質単分子膜への吸着法による結晶化を試み、ミクロスケ-ルのテフロンウェルを用いてアクチン二次元結晶の作製に成功した。Hans O.Ribiの手法に倣い、直径6mmの小さなテフロン・ウェルに盛った100μlの緩衝液表面に正電荷を帯びた脂質単分子膜を形成した後、この緩衝液中にアクチン・フィラメント懸濁液10μlを注入した。負の表面電荷を持つアクチン・フィラメントは静電的に脂質単分子膜に吸着する。(1)運動の二次元面内への制限、(2)脂質の流動性の両者が結晶化を促進する訳である。電子顕微鏡で観察すると、従来の溶液中での結晶化(数日)と比べて、短時間(約30分)のうちに大きなパラクリスタルが高頻度に成長することがわかり、この方法の有効性が証明された。 2 阻害状態との比較: 溶液中での結晶化では、Ca低濃度下(ミオシン頭部との結合を阻害された状態)の結晶は高濃度下の結晶に比べ質が劣っていたため、詳細な構造比較ができなかった。地方、電子顕微鏡用銅グリッド上で、活性状態のパラクリスタル試料をEGTA緩衝液で洗うことにより、フィラメント構造が変化することが示された。今後、脂質単分子膜への吸着法によりCa低濃度下でも良質の結晶作製めざす。
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