【はじめに】今年度は欧米における環境倫理の系譜についての研究を行った。その結果、欧米における環境倫理は、今日の環境倫理学者の考えは「人間中心主義と「生命中心主義」の二つに大別することができる。そして、生命中心主義はアトミスティクなものとホ-リスティクなものとに大別することができる。人間中心主義は、環境に利害関心を要する人間の基本権を侵害してはならないという道徳的義務によって活動を正当化し、環境に対する義務はあくまでも人間共同体に基礎を置くとする考えである。これに対して生命中心主義は、動物や自然物が本来的権利をもつという理由で自然を保護する行為の正当性を主張し、自然に基礎を置く考えである。 【人間中心の環境倫理】ジョン・パスモアは、人間以外の生物は意志伝達が不可能であり、相互的な義務を認識できないから、道徳共同体の参加資格がなく、人間にとって自然は道具的な価値しかないとする。 【生命中心の環境倫理】ピ-タ-・シンガ-やトム・レ-ガンによる動物の解放の考え方、アルネ・ナエスのディ-プ・エコロジ-、キャリコットの倫理的全体論、等がある。 【おわりに】現在、提唱されている環境倫理は、これらの内容からわかるように、今日、私たちに必要とされる新たな倫理、すなわち、ライフ・スタイルの見直しをせまる新たな倫理とは異なってる。また、環境倫理そのものがユニバ-サルな欧米の価値観を強く反映したものであり、日本人のようなドメスチックな価値観をもつ人々には理解しがたい面がある。この意味で、本研究課題の目的である日本的環境倫理の構築が望まれるところである。
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