研究概要 |
ハロゲン化遷移金属錯体(L)_nMC1はホスファイトP(OR)_3とアルブゾフ型脱アルキル化反応を起こして、ホスホネ-ト錯体となる。(L)_nMC1として、ピアノ椅子型鉄錯体Cp(CO)_2FeC1をアミノ置換ホスファイトP(NR_2)Y(OR);(Y=OR,NR_2)と反応させると、この反応の中間体と考えられる陽イオン錯体[Cp(CO)_2Fe{P(NR_2)Y(OR)}]^+が単離された。この中間体のOR基のα炭素に、脱離したC1^ーが攻撃すめば通常のアルブゾフ型脱アルキル化反応の生成物[Cp(CO)_2Fe{P(O)(NR_2)Y}]を与えるが、この中間体に常温でOR'^ーを反応させると、NR_2^ー基が選択的に脱離した[Cp(CO)_2Fe[P(O)Y(OR)}]が生成することを見出した。即ち、外部から加えたOR'^ー基は生成錯体中には存在せず、結果的に生成物中のP=OのOを提供したことになる。 この反応生成物の生成経路は次のように考えられる。まず,OR'^ーがOR基のα炭素にではなく、Pに求核攻撃し、金属錯体の部分がP原子に共有結合した5配位の異常原子価リン化合物(メタラホスホラン)が一旦生成する。次にもう1分子のOR'^ーがapical位にあるOR'基のα炭素を求核攻撃し、その結果、NR_2^ーが選択的に脱離し、P=O結合が生成する。(当然R'ーOーR'の生成を伴う。) この反応機構によれば、[Cp(CO)_2Fe{P(NR_2)_n(OPh)_<nー3>}]^+(nーOー3)のように脱離したC1^ーが攻撃できるα炭素を持たない陽イオン錯体もOR'^ーと反応し、ホスホネ-ト錯体を与えるはずである。このことは実験的に確認され、異常原子価メタラホスホランを経由する反応機構が支持される。この中間体は単離できる程安定ではないが、P原子での配位子のsite preferenceやstereomobility等の点で極めて興味ある化合物であり、この種のリン化合物を単離し、構造決定も含めその物性を明らかにする研究を今後も推進する予定である。
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