腸運動を反射的に制御する神経回路はアウエルバッハ神経叢のなかに構成されていると考えられるので、本研究ではアウエルバッハ神経叢の機能構築に関する形態学的および電気生理学的観察を行った。このために、モルモットの回腸と十二指腸のアウエルバッハ神経叢の神経細胞に蛍光色素(Lucifer yellow)を含むKC1ーガラス管微小電極を刺入し、単一神経細胞の活動電位、シナプス電位ならびに静止膜特性などの記録を行った後、その細胞の蛍光染色像を観察した。回腸では、アセチルコリン(ニコチン性作用による)を伝達物質とするfast EPSPをもつS細胞と、時間経過の長い活動電位後電位をもつAH細胞がある。S細胞は細胞体表面が粗で1本の長い突起と多数の短い突起をもつDogielのI型に、AH細胞は平滑な表面の細胞体と細長い複数の突起をもつDogielのII型に、それぞれ対応する。十二指腸では、DogielのI型とII型の細胞数の比は回腸と大差なく約3:2で、電気生理学的分類との対応も基本的に同一であった。S細胞の最も長い神経突起は肛門側へ下向することが多かった。AH細胞では各方向に向かう数本の細長い突起をもつが、口側あるいは円周方向へ向かうことが比較的多い傾向がある。S細胞のfast EPSPは口側での焦点電気刺激によって発生する場合が最も多く、SおよびAH細胞のslow EPSPを発生させるには口側での刺激が最も有効であった。以上のように、肛門側へ向かう神経経路が優位であった。細胞内Caイオン濃度を光学的に測定する技術と画像処理技術を併用して、多数の神経細胞の活動を二次元的にとらえ、活動中の神経回路の活動様式を解析するための準備を開始した。
|