研究概要 |
バンコマイシンは顕著な抗菌活性を示し、その原因はバクテリアの細胞壁を構成するNーアシルーDーアラニルーDーアラニンを特異的にバイディングすることにある。 そこで、バンコマイシンの全合成の第一歩として、NーアシルーDーアラニルーDーアラニンを分子認識する活性部位、すなわちバンコマイシンのB,C環の合成をいろいろな反応条件下で検討し、以下に示すようにその合成に成功した。 一般に、ジフェニルエ-テルの成合法としてウルマン反応が知られているが、我々は独自にO,O'ージハロゲノフェノ-ルの硝酸タリウム(TTN)酸化、次いで亜鉛末で還元することにより、二段階でジフェニルエ-テルを合成する方法を開発した。本研究においては、二個のO,O'ージハロゲノフェノ-ルにおいて、置換基として一方をヨ-ド原子、他方を臭素または塩素原子にした場合、硝酸タリウム酸化を行ったところ、相当するジエノン体は生成せず、一段階で目的のジフェニルエ-テル体を比較的良い収率で合成することができた。 上記の実験結果をふまえて、先ず、バンコマイシンのB環に相当する直鎖のトリペプチドを合成し、これをTTN酸化に付することにより、目的とする大環状ジフェニルエ-テルを収率35〜40%で合成することができた。次の段階として、B環のN末端の保護基を除き、この部分にバンコマイシンのC環に相当するトリペプチドを結合した。最後に、TTN酸化を行い目的とする三環性の大環状ヘキサペプチドを合成することに成功した。本化合物は、バンコマイシンの活性部位に相当する。現在、バンコマイシンのA環部分の合成研究を進めているが、最終的には、バンコマイシンの全合成を目指す。
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