高温条件下でのラジカルや原子といった活性種の化学反応の研究は、同時に多くの反応が進行することや活性種の発生が容易でないことを理由に、正確な速度論的情報を得にくい。衝撃波をラジカルの発生法として利用する場合、発生過程そのものが律速段階となり特定の反応素過程の研究が困難であることが多い。これを克服し、高温環境下での特定のラジカルのパルス的発生とその化学反応の研究を目的として、衝撃波とレ-ザフォトリシスを組み合わせた実験を行なった。本研究では、アセチレン(C_2H_2)の熱解離過程をとりあげ、その中で重要視されながらも高温条件下での研究例のないラジカル種C_2H(エチニル)ラジカルの反応を対象とした。親分子との反応、C_2H+C_2H_2→C_4H_3+Hにおいて生成される水素原子を原子共鳴吸光法により検出し、その濃度の反応時間に対する挙動および生成速度のC_2H_2濃度依存性の測定から、同反応の速度定数を決定した。また、反応速度の温度依存性を1260Kから2487Kの温度範囲で測定し、活性化エネルギ-を決定した。その結果、速度定数(k)は上記の温度範囲でほぼ一定であり、k=(1.66±0.28)×10^<ー11>cm^3molecule^<ー1>s^<ー1>、活性化エネルギ-はほぼ0kcalmol^<ー1>、つまり反応経路上にエネルギ-障害がないことを明らかにした。一方、C_2H_2の熱解離過程の中で重要であるC_2Hラジカルの再生過程の逆反応であるC_2H+H_2→C_2H_2+Hについても同様に、水素原子の生成速度の測定を行ない、高温条件下で初めて反応速度測定を決定した。その温度依存性から活性化エネルギ-が約14kcalmol^<ー1>であることを見いだした。本実験での測定値の、低温(室温付近)への外挿値は、常温での測定例とかなり異なっており、低温条件下と高温条件下で反応生成物あるいは反応機構が異なる可能性を示唆している。以上、衝撃波加熱とレ-ザフォトリシス法の組み合わせにより特定の活性種の、特定の反応の研究を可能にした。
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