本研究では広い波長範囲の光を光源として用いるためにシンクロトロン放射光施設中に装置を作製した。本装置は通常の偏向部から出る放射光を差動排気部を通して超高真空仕様の反応・照射部に入射し、遠赤外光から波長約1nmの光まで用いることができる。さらに、固体表面上の光化学プロセスを研究するためには清浄な表面を得ることが重要なので、本研究ではタ-ボ分子ポンプで排気される超高真空チェンバ-を作製した。チェンバ-には反射赤外分光のための超高真空用BaF2窓、ガス分析用の四重極質量分析計、XYZマニピュレ-タなどが取り付けられている。また試料を1400K以上に加熱したり、100Kまで冷却できる加熱・冷却機構を作製した。偏光変調・高感度反射赤外分光を行うためにFTIRに外部光取り出し機構を付け、偏光子、光弾性変調器、MCT検出器および信号処理系からなる装置を作製した。 高感度反射赤外分光の効果を調べるために、白金およびシリコンに低温で吸着したFe(CO)_5について感度の入射角依存の測定を行った。その結果、理論から予測されるように、白金上での感度は入射角が大きいほど高くなるのに対し、シリコン上では約82°の入射角で最大となり、それ以上では低下することが分かった。また、白金上ではFe(CO)_5の単分子吸着層を十分な感度で測定できるが、シリコン上では感度がかなり下がることが分かった。次に、偏光変調の効果について検討した結果、感度が約2倍向上することが分かった。偏光変調の周波数は現在、62KHzとしているが、これを高くすればさらに感度は向上する。 作製した装置を用いて白金上に吸着したFe(CO)_5の光分解反応の測定を行った。シンクロトロン放射光の波長310および110nm以上の光を照射したところ、前者では分解生成物が赤外分光で検出されなかったが、後者ではFe_3(CO)_<12>と見られる生成物が見いだされた。
|