研究概要 |
1:ラット海馬は側脳室に沿ってC字状に湾曲しているので、長軸を直線状に伸展して固定し、長軸に直交する断面を基準にして形態学的解析を行った。これにより、海馬各領域の長軸方向での量的変化の把握が可能であり、また三次元的再構築も容易である。この割面での観察により,これまで背側海馬での存在が疑問視されていた海馬台が、中隔端に至るまで連続して存在することが明らかとなった。 2:CA3錐体細胞からCA1錐体細胞への軸索投射を、スライス切片を用いたHRP細胞内染色法とPHAL法により解析した。この結果、CA3錐体細胞の軸索は所謂lamella(薄い板状領域)内に限局するのではなく、むしろ海馬長軸方向に三次元的に広がることがわかった。CA3からCA1への軸索分布様式には三種の特徴が認められた。1)起始細胞の位置により中隔ー側頭葉方向への軸索終末分布の焦点が異なる。すなわち、CA3aからは、起始部よりも側頭葉側に投射が多く、中隔側へは少ない。CA3bからの軸索終末は、起始部レベルに最も多く分布する。CA3cからの投射では、起始部よりも中隔側に分布の焦点がみられる。2)CA1領域における終末分布の海馬台ーCA3方向への変化。軸索が注入部より中隔側へ行く程CA3に近い領域へ限局して来るのに対し、注入部より側頭葉側に向かうにしたがい、海馬台側へ移行する。3)海馬溝(頂上突起)ー白板(基底突起)方向への終末分布の変化。起始部より中隔側へ行くほど投射軸索の分布は白板側へ移行する。反対に起始部より側頭葉側へ行くほど放線層の最表層部、分子層直下に集合して来る。つまり、CA1錐体細胞頂上樹状突起の末梢部に分布が移行していく。軸索が中隔ー側頭葉方向へ広がる際に見られる2)と3)の分布域移行様式は、CA3のどの亜区分からの投射にも共通していた。
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