表情の認知は、サルやヒトが日常的に行っている複雑な視覚情報処理の一つである。ヒトにとって、表情の認知が、適正な人間関係や社会関係の維持に重要であることは言うもでもないことであるが、社会的動物であるサルにとっても、群れの中で仲間のサルトの適正な社会関係を維持するためには、お互いの顔の識別とともに、表情の識別と、それにもとづく適切な行動選択が不可欠である。 本研究では、表情認知の基礎となる複雑な図形認知の脳内神経メカニズムを、主としてサルを用いて明らかにすることを目指している。今年度は、ヒトやサルの顔、表情、全身像、エサや実験装置などの写真の識別と記憶をテストするために、3頭のアカゲザルに遅延時間を含む視覚弁別課題を教え、課題遂行中に側頭連合野からニュ-ロン活動を細胞外記録して解析した。まず、それぞれのニュ-ロンが、テストした写真のうち何枚の写真に有意な活動変化(反応)を示したかを調べ、選択性活指数(SI=1ー〔反応した写真の枚数〕/〔テストした写真の枚数〕)を計算した。SIは0.7と比較的高い値を示し、側頭連合野がテストした写真の識別に重要な役割を果していることが推定された。つぎに、SIとニュ-ロンの記録部位、写真提示からニュ-ロン活動開始までの遅れ時間、ニュ-ロン活動の持続時間との関連を調べた。テストした写真に反応したニュ-ロンの層分布は、II、III層で選択性の低いものと高いものが混在し、V、VI層では、選択性の高いものがほとんどであった。また、反応潜時および持続時間は選択性の高いもので延長した。 遅延時間中の活動は、側頭極部分で特に著明に見られた。側頭極ではまた、特定の写真に提示にのみ対応した周期的活動が見られた。2の周期的活動の多くは、6ー8Hzの比較的低い周波数であった。さらに、遅延時間に特徳の写真に対応した周期的活動を示すニュ-ロンもあった。
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