本年度は2頭のチンパンジ-で、研究代表者をモデルにした動作模倣の実験を行なった。模倣させる動作数を増加させ、以下の3点を検討した。1)動作によって模倣に難易はあるか。2)どのような条件下で模倣は生起するのか。3)模倣のエラ-はどのように生じるのか。これらの点を検討するために、模倣させる30の動作を身体部位、動作の方向、客体の有無より、6群に分類した。1)耳を指さすなど顔面頭部へ向かう動作、2)胸を指さすなど体幹部へ向かう動作、3)手の平を指さすなど上腕手指に関連した動作、4)足を上げるなど下肢、尻に関連した動作、5)床を指さすなど外界へ向かう動作、6)鉛筆をとるなどの対象操作を含む動作である。被験体は実験者が行なう動作を正しく模倣することにより報酬をえることができる。被験者は1回の試行で3回まで動作することが許された。3回以内に当該の動作がなされない時には、実験者が被験体の手をとりその動作を作った(molding)。また。その動作のオペラント条件づけも行なった。 実験結果は次のように要約される。1)動作が顔面頭部や体幹部に向かう時のように、視覚の補助が少ないと、模倣がむつかしい。2)上腕や手指に向かう動作のように視覚のフィ-ドバックがある時には、成績は改善される。3)足や尻を含む大きな動作の場合は、模倣は容易になる。4)動作が外空間に向かう場合、対象操作を含む場合は、模倣はさらに容易になる。また、5)動作模倣成立の条件は、moldingや条件づけの研究から、被験体がその動作をレパ-トリ-として持っていること、テスト事態でその動作が自発しやすくなっていること、などである。さらに6)エラ-は対象となる身体部位に隣接する部分に向けられることが多かった。 現在タッチパネルシステムによる実験が進行中である。
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