本年度は、自分ないし人間一般についての知識を基底とする類推としての擬人化に基づく因果推論のモデル化のための基礎的資料を得る目的で、幼児(及び比較のために大学生)に心理学的実験を行なうとともに、計算論的モデルの基本的な構想の予備的吟味を行なった。 (1)3つの型の未知の場面に対する既知の動植物Xの反応を予測させ、その理由づけを因果推論とみなして分析した。その結果、Xが人間と本質的に類似した反応をする場面及び、Xは人間と異なる反応をするが、擬人化に基づく予測が既有知識と矛盾しない場面では、半数ないしそれ以上の子どもが擬人化による予測・因果推論をしたが、Xが人間と異なる反応をし、擬人化が受け入れがたい予測を導く場面では、そうした推論は殆ど生じず、擬人化による推論が、対象についての個別的知識により修正・調整されることが示唆された。 (2)既知の動植物Xの反応を「結果」として与え、その「原因」をたずねる2種の実験においても、(1)に於ける場合と同様、Xについての記述を人間あるいは自分についての記述に置き換え、因果推論を行ない、それをもう一度Xについての記述に戻す、といった方略がしばしば見出された。 (3)人間とある意味では類似している動植物の代わりに身体器官・部位の活動について説明を求めても、やはり対象についての個別的知識により修正・調整される擬人化による予測・因果推論が見られるかを検討した。その結果、身体器官の活動に対しても人間的属性の選択的転用を観察された。 (4)本年度得られた心理学的資料に基づき、計算論的モデルを構築するための予備的検討を行なった。次年度以降では、symbolic connectionist modelの援用により、波多野(1985)のモデルをより精緻化していきたい。
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