研究概要 |
網膜は光受容器であるとともに、視細胞が捕らえた視覚情報から像の形、色、動きなどの情報を抽出する神経組織である。これらの視覚情報は網膜神経節細胞で活動電位の発射パタ-ンに符号化される。スパイクの発射頻度を決定するのは神経節細胞へ入力するシナプス入力や神経節細胞が持つイオンチャネルのキネティックスである。ネコなど哺乳類網膜の神経節細胞は、スパイク発射パタ-ンの異なるX,Y,W型に機能的に分類され、これらの性質と形態学的な対応も明かになっている。われわれは生理学的・形態学的諸性質の知られている成体ネコ網膜神経節細胞の膜特性を分析するため、ネコ網膜から細胞を単離する技術を開発し、ネコ網膜からも単離神経節細胞が得られるようになった。本研究では単離神経節細胞にパッチクランプを施し、細胞のイオン電流を解析した。外側膝状体あるいは上丘へ注入した蛍光色素で神経節細胞を逆行性に標識し、単離後の同定を可能にした。また、細胞の投射先と細胞体の大きさから単離神経節細胞のサブタイプ(X,W型)も同定することが出来た。神経節細胞には全てのサブタイプにおいて、脱分極によって活性化されるナトリウム電流、カルシウム電流、3種類のカリウム電流と、過分極側で活性化されるh電流の6種類の電流が認められた。このうちナトリウム電流の不活性化からの回復過程はサブタイプによって異なっており、小型のW細胞では回復が遅く、中型のX細胞では速かった。X細胞は光刺激に対し高頻度のスパイク発射を示すのに対し、W細胞では低頻度であることが知られている。われわれの観察したナトリウム電流の回復過程の違いは、神経節細胞のサブタイプによって異なる情報符号化の仕組みに関与している可能性が考えられる。これらの研究成果については、一部学会誌に投稿、一部投稿準備中である。
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