研究概要 |
難治性てんかんの治療のため右側頭葉前部を切除した症例については、従来、音の記憶、音色の同異判断(Milner,1962)や顔の記憶(Miler,1968)などの障害が報告されている。我々は、このような障害が実際に生じるかどうかを検討した。 音の記憶とは、3〜5音からなる音のパタ-ンが二回続けて提示され、1回目に提示された音のパタ-ンのうち1音だけが二回目の提示の際に変化し、その変化した音が何番目の音であったかを指適摘する課題である。また、音色の同異判断とは、連続する二つの和音を比較し、はじめの和音と二回目の和音が同じであったか、異なっていたかを判断する課題である。右側頭葉前部切除4例(男2名/女2名)、左側頭葉前部切除4例(男3名/女1名)を対象とした。切除範囲は右側頭葉前部切除例が側頭極から後方へ5〜6cmであるのに対して、左側頭葉前部切除例では失語症を避けるためにそれより狭い範囲がいろいろなパタ-ンで切除された。対象は全て右利きで、アミタ-ルテストにより左半球が言語の優位半球であった。その結果、右側頭葉前部の切除では、4例とも音の記憶、音色の同異判断について障害を認めなかった。左側頭葉前部切除4例について、いずれの検査でも障害は認められなかった。 顔の記憶では、縦3枚、横4枚に配置された12枚の顔写真と縦横5枚づつ配置された25枚の顔写真が用いられた。12枚の顔写真が45秒間提示された90秒後に、それを25枚の顔写真の中から選び出すように求められた。右側頭葉前部切除7例(男5名/女2名)、左側頭葉前部切除4例(男4名)を対象とした。切除範囲は実験Iの対象と同様であった。全ての対象が右利きであり、アミタ-ルテストにより左半球が言語について優位半球であった。その結果、術前、術後の成績に差はなかった。従って、右側頭葉前部の切除によって顔の記憶障害は生じないと考えられる。
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