近年、致死性不整脈の機構究明およびその治療法確立を目的に、単離心筋細胞や心筋組織における興奮伝搬過程を対象とした詳細な生理実験が進められている。生理実験により得られたデ-タから興奮伝搬に関する本質的メカニズムを解明するためには、イオン電流など生理学的知見に基づく細胞モデルを構築し、計算機シミュレ-ションにより両者のダイナミックスを比較・検証する手法が有効と考えられる。これまで、我々はこうした視点からBeelerーReuter(BR)単一心室筋イオン電流モデルを離散的に結合した興奮伝搬モデルを構成し、シミュレ-ション解析を進めてきた。その結果、興奮伝搬過程における動的な特徴量を含めて生理実験結果を定性的に表現でき、本離散モデルの妥当性、および連続ケ-ブルモデルに対する有効性を示した。しかしながら、BRモデルではNa電流による急峻な活動電位立ち上がり部分を定量的に表現できない問題点が指摘されてきた。そこで本研究では、活動電位立ち上がり特性を生理的状態(37℃)で定量的に測定するための検討を行い、モルモット単離心室筋より得られた生理実験デ-タに基づいて新しいHodgkinーHuxley型Na電流モデルを構築した。本提案モデルの妥当性を検証するために、BRモデル、従来の改良Na電流モデル、および生理実験によるNa電流特性を比較した結果、本モデルは生理実験結果をより詳細に表現できることを確認した。したがって、本モデルを用いた興奮伝搬シミュレ-ションにより、生体内での興奮伝搬過程をより定量的に解析できると考えられる。今後、抗不整脈薬を用いた生理実験と、その作用を取り入れた興奮伝搬過程シミュレ-ションを進める予定である。こうしたアプロ-チにより、臨床的な不整脈治療に大きく貢献できるものと考えられる。
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